「もし海外で病気やケガをしても、クレジットカードの付帯保険や、日本の公的医療保険(海外療養費制度)があるから大丈夫」――そう信じて疑わない人は少なくありません。確かに、日本には帰国後に医療費の一部が払い戻される優秀な救済策が存在します。しかし、ここには落とし穴があって……。リタイア記念にハワイ旅行へ行った夫婦の事例をみていきましょう。※人物名はすべて仮名です。
「公務員時代の貯えが、一瞬で消えた…」退職金+貯金計5,800万円を確保した65歳元公務員夫婦、1ヵ月豪華ハワイ旅行の帰国後、〈国際郵便〉で届いた衝撃の通知 (※写真はイメージです/PIXTA)

円安×アメリカ医療費の「恐怖」

実はハワイ滞在の後半、オサムさんは激しい腹痛と嘔吐に見舞われ、救急車で現地の大病院に搬送されました。診断結果は「急性胆嚢炎」。そのまま緊急手術となり、集中治療室(ICU)に3日間、一般病棟に4日間入院したのです。

 

退院時、病院のスタッフからは「保険会社と直接やりとりするから、今日の窓口負担は不要です」といわれ、オサムさん夫婦は「ゴールドカードの海外旅行保険が付帯しているから大丈夫」と高を括っていました。

 

しかし、アメリカ(特にハワイなどの観光地)の医療費は世界最高水準であり、さらに昨今のインフレと円安がその額を信じられない規模に押し上げています。

 

             ドル建て価格     日本円換算(1ドル=155円)

救急車搬送費       2,000ドル       約31万円

緊急手術費用         4万ドル        約620万円

ICU滞在費(3日間)    2万8,000ドル      約434万円

一般病棟入院費・検査代    3万ドル        約465万円

総額           10万ドル       約1,550万円

 

オサムさんが信頼していたクレジットカードの海外旅行保険。その「疾病治療費用」の補償限度額は、1件につき「500万円」でした。

 

自己負担額=1,550万円ー500万円=1,050万円

 

病院側からの通知に書かれていたのは、保険適用後でもなお1,050万円という巨額の請求でした。

 

日本の公的制度という救済策があるが…

「これでは貯蓄を丸ごと支払いに充てなければいけない……」と目の前が真っ暗になったオサムさんですが、日本の公的医療保険には、海外での医療費負担を救済する「海外療養費制度」が存在します。帰国後に申請すれば、お金の一部が払い戻される仕組みです。しかし、ここには計算ルールがあります。

 

払い戻される金額は、海外で実際に支払った「1,550万円」ベースではなく、「もし日本国内で同じ治療(胆嚢炎の手術・入院)を受けたら総額いくらかかるか」を基準に計算されるのです。

 

「支給される金額は、日本国内の医療機関等で同じ病気やケガの治療をした場合の費用(標準額)を基準に計算します。(中略)海外で支払った実際の医療費が、日本の医療機関で治療した場合の費用(標準額)より大きい場合は、日本の費用(標準額)を基準として支給額を算定します」
(出典:全国健康保険協会公式HP「海外で急な病気にかかったとき(海外療養費)」より要約)

 

日本国内で同じ治療を行った場合の総医療費は、およそ100万円程度です。ここから日本の「高額療養費制度」を適用すると、一般的な所得層における自己負担額は約10万円に抑えられます。つまり、この制度によって国から補填(還付)されるのは、日本基準の総額から自己負担を引いた「約90万円」だけなのです。

 

ハワイでの医療費実費: 約1,550万円

クレジットカード保険補償: −500万円

海外療養費制度からの還付: −90万円

最終的な自己負担額: 約960万円

 

日本の福祉制度をフル活用してもなお、クレジットカードの限界値と海外の超高額医療費の狭間に落ちた「約960万円」という大金は、すべてオサムさんの持ち出しになってしまうという現実でした。