現代の日本において、高齢化したひきこもりを家族が支える問題は深刻な社会課題となっています。このリスクは親の死後、残されたきょうだい間へと引き継がれ、新たな孤立を生み出しています。ある姉弟の事例から、きょうだい間の共倒れを防ぐための教訓をみていきます。
限界です…〈年金月16万円〉〈貯蓄2,500万円〉65歳長女、老後安泰のはずが悲鳴。原因は「20年間実家を出ない」58歳弟 (※写真はイメージです/PIXTA)

誰もが羨むはずの「豊かな老後」の裏側

「両親が遺してくれた資産と私の貯えがあれば大丈夫だと思っていました。あの見通しがどれほど甘かったか、今は痛感しています」

 

小林美智子さん(65歳・仮名)は数年前に定年退職し、現在は月額約16万円の年金を受給しながら実家で暮らしています。

 

現役時代にフルタイムで勤め上げた美智子さん自身の貯蓄と、亡くなった両親から相続した遺産を合わせると、手元の資金は2,500万円。一般的な基準から見れば、老後の備えとしては申し分のない金額です。

 

しかし、美智子さんは精神的に追い詰められています。同居する弟の浩二さん(58歳・仮名)は大学卒業後に一度就職したものの、職場の人間関係から体調を崩して退職。その後は20年以上にわたり、実家でひきこもり生活を続けています。

 

内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、40歳から64歳までのひきこもり状態にある人が全国に推計約61万人いるとされています。ひきこもりは若者だけの問題ではなく、高齢化する家族全体を揺るがす問題になっているのです。

 

「両親が生きていた頃は、父親の年金で弟の生活費もすべて賄えていました。両親も、家と遺産があれば弟が生きていく分には困らないだろうと言っていたのです」

 

2年前に母親が他界し、両親がともに亡くなったことで、実家には美智子さんと浩二さんの二人だけが残されました。2,500万円の資金は美智子さんが管理することになりましたが、ここから想定外の支出が始まります。

 

収入が一切ない浩二さんは、インターネット通販で高額な趣味の物品を頻繁に購入するようになり、その代金はすべて美智子さんが管理する口座から引き落とされていきました。

 

「生活費が必要だからと小遣いをせがまれると、拒否できません。もし断って暴れられたりしたらと思うと、恐怖が勝ってしまうのです」

 

気がつけば、2,500万円あった貯蓄は、この2年で300万円減りました。さらに浩二さんの要求は、美智子さん自身の年金(月16万円)にまで及んでいます。美智子さんの年金は本来、単身である彼女自身の日常生活を営むための原資。しかし、実際には浩二さんの食費や光熱費、通信費へと消え、美智子さん自身の自由になるお金はほとんど残らない状態に陥っています。