日本の高齢者雇用が拡大する一方、現役時代の輝かしいキャリアや肩書きを忘れられず、再雇用後の人間関係や待遇のギャップに苦しむシニア層が急増しています。ある男性の苦悩を通し、シニアのアイデンティティのあり方を見ていきます。
「あの人、まだ会社にいたんだ」元部下の陰口に〈月収28万円・再雇用60歳男性〉、トイレでむせび泣き。プライドを捨てきれない「元エリート」の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者でも当たり前のように働く現代…課題は?

高橋さんのような60代前半のみならず、さらに上の世代の就業も進んでいます。総務省『労働力調査』によると、2024年、65歳以上の就業者数は21年連続で前年を上回り、930万人と過去最多を記録。就業率は25.7%と、高齢者の4人に1人が働く時代です。また60代後半の就業率は53.6%、70代前半は35.1%ということから考えると、完全リタイアの人が半数を超えるのは、70歳前後と考えられます。

 

そのようななか、課題となっているのが高齢者のメンタルヘルス。現役時代の肩書きや成功体験に縛られ、再雇用後の新しい立場を受け入れられないシニア男性は少なくありません。現役時代、人生のすべてを会社に捧げてきた人ほど、定年によってアイデンティティを喪失し、メンタルヘルスを悪化させるリスクが高まるのです。

 

独立行政法人労働政策研究・研修機構『高年齢者の雇用に関する調査(2020年)』では、再雇用者が職場で感じるストレスの要因として、「賃金ダウン」や「責任や権限の喪失、変化」のほか、「職場の人間関係・コミュニケーション」が上位に挙がりました。現役時代とのギャップを受け入れる精神的な準備がないまま、再雇用という環境に飛び込むことの危うさが示されています。

 

高橋さんはその後、会社に行く時間が近づくと激しい頭痛やめまいに襲われるようになり、心療内科を受診。
休職を余儀なくされました。そして心療内科のカウンセラーとの対話を通じて、少しずつ自身の問題と向き合えるようになったといいます。

 

「もう私には価値がないと思い込んでいました。そもそも、どの世界でも年上の存在は厄介なもの。私だってそうだったのに、ショックを受けるなんて。情けないですね」


そして高橋さんは復職を果たす傍ら、地域のボランティア活動やシニア向けの市民講座に通い始めたといいます。

 

「会社以外の場所に、自分の居場所を見つけることが大切。もっと現役時代から、会社以外の人間関係や趣味を持ち、視野を広げておくべきでしたね」