「もし数億円の資産があったら、会社なんて辞めて自由に暮らしたい」―そう考える人は少なくないでしょう。しかし、十分な資産を持ちながらも、あえて“普通の会社員”として働き続ける会田さん(46歳・仮名)。その背景にあるのは、幼少期に見てきた「働かずに家にいた父親」の存在でした。“隠れ億リーマン”の生き方から見えてきた、資産形成の先にある「本当の豊かさ」とは? CFPの伊藤寛子氏が解説します。
「資産3億円あります。でも、会社員は辞めません」…今日も満員電車で通勤し、上司の小言に付き合う46歳男性。“隠れ億リーマン”の根底にある「働かない父」という反面教師【CFPが解説】
お金はあっても、幸せそうに見えなかった父
会田さんの父親は、地方の古い地主の家系で、生まれながらの資産家でした。複数の不動産収入や配当収入があり、働かなくても十分生活できる資産状況だったため、会田さんが子どもの頃には、すでに会社勤めをしていませんでした。
父親は家にいることが多く、テレビを見ている日もあれば、ソファで昼寝をしている日もありましたが、時間を持て余し、どこか退屈そうで、その姿が「うらやましい」とは映りませんでした。
父親には資産管理のための仕事はあるものの、決まった仕事内容の繰り返しで大きな変化や刺激もありません。関わる人も限られており、「社会から必要とされていない」という孤独感を抱くようになっていったのでしょう。次第に家庭内での関わりや会話も少なくなり、家の中には閉塞感が漂っていました。
お金があっても幸せそうに見えなかった父親の姿が、「社会と関わり続ける」という会田さんの譲れない信念になっていったのです。
子どもたちに「3億円の資産」を隠し続けるわけ
会田さんには高校生と中学生の子どもがいますが、子どもたちには毎朝「行ってきます」と言って会社へ向かう姿を見せています。
「もちろん、働くことは楽じゃないです。でも、“社会と関わりながら生きる”って、大事なことだし、その姿を見せたいと思うんです」
その思いは、会田さんにとって譲れないことです。また、住まいや家電もごく一般的。贅沢を禁止しているわけではなく、家族旅行や外食も楽しみますが、夫婦ともに派手な消費には興味がないのです。
会田さんは実家や自分の資産状況について、妻には伝えていますが、子どもたちには話していません。
「将来、資産を譲る可能性はあるにせよ、子どもに、“うちはお金があるから大丈夫、働かなくても問題ない”とだけは思わせたくない。まずは自立して生きる力を身につけてほしいんです」
その言葉には、父親を見て育った経験と、子どもたちの将来を案じる気持ちがにじみ出ています。
