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「定年後男性」の社会的孤立
内閣府『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年実施)』によると、田中さんのような「未婚」や「同居人がいない」状態は、孤独感を深める大きな要因です。実際、孤独感が「しばしばある・常にある」と答える割合は、有配偶者の4.2%に対し、未婚者では12.1%と約3倍に上ります。また、同居人がいない人でも9.8%と高い水準を示しています。
さらに、孤独感に影響を与えた出来事として「退職」や「一人暮らし」を挙げる人も多く見られます。現役時代は「部長」という肩書や職場の人間関係が孤独を遠ざけていたものの、定年でそれらを一気に喪失したことが、彼を「空白の日々」へと追いやりました。経済的なゆとりだけでは防げない、社会的な役割やつながりの喪失がもたらす定年後の孤独の深刻さが浮き彫りになっています。
また厚生労働省の資料によれば、精神疾患の入院患者全体の約66%(約17.5万人)を65歳以上の高齢者が占めており、患者の高齢化が顕著です。さらに、外来患者全体の中で最も多い疾患は、うつ病などを包含する「気分(感情)障害」であり、令和5年には約156.6万人に上ります。定年退職に伴う社会的な役割の喪失や、単身化による深い孤独感は、将来的にこうした精神疾患の発症リスクを高める深刻な要因といえます。
現在、田中さんは週に3回、地域のシルバー人材センターを通じて、近隣の公園の清掃ボランティアに参加しています。そのきっかけも、かつての部下だったといいます。
「心配して、家まで来てくれて。さらに『このままだと取り返しがつかなくなる。無理のない範囲で仕事をしてみては』と、地域のシルバー人材センターまで連れて行ってくれたんです。こんなに心配してくれる人が自分にいるとは、思ってもみませんでした」
現役時代の華々しい実績や高額な資産も、それだけでは生活のすべてを支え切ることはできません。組織を離れた後に重要となるのは、肩書のない一人の人間としての社会的なつながりです。田中さんが見つけたボランティアという新しい役割は、今後の生活において、孤独を防ぐための確かな足がかりとなっています。