高度経済成長期、羨望の的だった“夢のマイホーム”。憧れを手に入れた人たちは、それぞれ岐路に立たされています。ある70代夫婦の視点を通して、終の棲家について考えていきます。
バスは1時間に2本、スーパーも遠い…78歳夫婦「本当に不便」と言いながら、限界ニュータウン・築50年の戸建てを1,000万円かけてリフォームした「納得の理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「利便性」を捨ててまで守りたいもの

しかし、高橋さん夫妻は住み替えを選びませんでした。それどころか、2年前には1,000万円近い資金を投じて、自宅の大規模リフォームを行っています。バリアフリー化はもちろん、断熱改修や最新の住宅設備を導入し、この家で人生の幕を閉じる準備を整えたのです。

 

経済的な合理性だけで考えれば、資産価値が下落傾向にある家を売却し、コンパクトな都市型住宅へ移るのが正解かもしれません。

 

「そうですね、子どもたちも家を売って、もっと便利なところに引っ越してほしかったみたいです。心配みたいですよ、こんな寂れた街で暮らしていくのは」

 

それでも、勝利さんがこの地に固執するのには、数字では測れない理由がありました。

 

「引っ越した人も多いけれど、半分くらいの人たちは、これからもこの街で生きていくといっています。50年も暮らしてきましたから。多少不便でも、心安らかにいられる環境のほうが価値があるんですよ、私たちには」

 

高齢者の単身世帯や夫婦のみ世帯が急増するなか、物理的な利便性だけでなく、住民同士の緩やかな支え合いも、安心して暮らし続けるうえで重要になっています。現在、高橋さんの住む自治体では、有志による送迎支援や、週1回の移動販売車の巡回が行われています。また、「最近、あの家のカーテンが開いていない」といった小さな異変に住民同士が気づき合う関係性も、地域に残っています。

 

さらに、コロナ禍の経験が、引っ越しを思いとどまらせたといいます。

 

「あのとき、初めてインターネットで買い物をしてみたんですよ。やってみたら『ああ、こんなに簡単なんだ』と。普段は健康のために買い物に出かけますが、結構、インターネットも活用しています。インターネットさえあれば、たいていの不便は解消できるものですよ」

 

人生の晩年、どこで暮らすか。その価値観は人それぞれです。「年を取ったら何かと便利な場所がいいはず」と決めつけるのは、少し早計なのかもしれません。