長寿化が進むなか、親子が共に高齢期を迎えるパターンは珍しくありません。そこで気になるのが経済的困窮や老老介護ですが、お金の不安がなくても、思わずため息しか出ないという状況に追い込まれることもあります。長寿ゆえにこじれてしまった、ある親子のケースを見ていきます。
「母のことなんて、かまっていられない…」〈年金月16万円〉65歳息子が語った本音。「長寿の親」という重荷に悲鳴 (※写真はイメージです/PIXTA)

長生きとともに家族への依存が強まることも

内閣府『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年実施)』によると、困ったときに頼れる人がいる場合、その相手に「家族・親族」を挙げる割合は95.3%に上ります。

 

特に80歳以上の女性は「友人・知人」を頼る割合が33.6%にとどまり、他者より家族を頼る傾向が顕著です。経済的な不安がなくても、配偶者との死別や身体の衰えに直面し、施設という慣れない環境に置かれた高齢者が、唯一気を許せる子どもに執着してしまうのは、深い孤独感の裏返しといえるかもしれません。

 

「一番堪えるのは、母からの感謝の言葉です。数時間の話し相手をして、ようやく帰ろうとすると、『やっぱり徹は優しいね。お前がいてくれて本当に良かった』と笑顔で見送られる。そう言われたらどうしようもない。本当は『母のことなんて、かまっていられない』と思っているのに、そう考えている自分が悪者に思えてくるんです」

 

仕事を辞めて年金生活に入ったら、妻と趣味の旅行にたくさん行こうと話していましたが、今のところ1泊2日で近場の旅行に行ったきりだといいます。静子さんは「行ってきなさい」と口では言いつつも、不在中に何度も着信を残し、施設で倒れたふりをするなどして、何とか池田さんを呼ぼうと必死になるからです。

 

どんなに経済的な基盤があろうとも、「家族という情愛」を盾にした依存を解決する術はありません。自立していたはずの親が、施設のなかから無意識のうちに子の人生に侵食していく――。

 

「母が死ぬのが先か、私が死ぬのが先か……そんな状態みたいなことを心配するようになりました。長生きがめでたいとは、心から言えない自分がいます」

 

池田さんは今日も、鳴り響くスマートフォンの着信に、ため息をついています。