子の自立を機に夫婦関係を清算する――。そんな熟年離婚はもはや珍しい光景ではありません。長年積み重なった価値観のズレが、子育てという共通目標がなくなってから一気に表面化する夫婦問題。ある男性のケースを通して、離婚に伴う財産分与や年金分割がもたらす生活基盤の変化について見ていきます。
「今日から他人だから」子が就職した翌日、53歳妻が突きつけた一通の書類。27年尽くした55歳夫が愕然とした「非情な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

財産分与と年金分割…突きつけられる老後の再設計

離婚協議が始まると、佐々木さんはさらに大きな現実に直面しました。

 

「真由美はかなり前から準備していたようでした。自宅の資産価値や預貯金、退職金の見込み額、生命保険の解約返戻金まで、すべて整理されていたんです」

 

婚姻期間中に築いた財産は、原則として夫婦で分け合う「財産分与」の対象になります。佐々木さんの場合、自宅マンションの資産価値から住宅ローン残高を差し引いた金額に加え、預貯金や、将来受け取る予定の退職金のうち婚姻期間に対応する部分などを合わせると、分与対象となる財産総額は約5,000万円にのぼりました。

 

その半額にあたる約2,500万円を真由美さんへ分与する必要がありましたが、手元資金だけでは対応できず、最終的には自宅マンションを売却することになったといいます。

 

「私は定年後もあの家で暮らすつもりでした。でも現実的に難しかった。住み慣れた家を手放したとき、『自分の人生が終わった』ような感覚になりました」

 

さらに、佐々木さんに重くのしかかったのが「年金分割」でした。年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の報酬比例部分を夫婦間で分割する制度です。

 

「制度そのものは理解できます。ただ、自分の老後設計が大きく変わってしまった。夫婦2人分の年金を前提に考えていた生活プランを、1人で立て直さなければならなくなりました」

 

60歳で定年退職し、その後は無理のない範囲で働きながら暮らしていく――。そんな将来設計も見直しを迫られています。現在、佐々木さんは会社近くのワンルームマンションで1人暮らしをしています。

 

「経済的な負担も大きいですが、一番こたえるのは、帰宅しても誰もいないことです。自分は家族のために生きてきたつもりでした。でも、それは私だけの思い込みだったのかもしれません」

 

一方、真由美さんは分与された資金をもとに、以前取得していた資格を活かして小さな仕事を始めたそうです。子どもたちからは、「以前より生き生きしている」と聞きました。

 

「彼女にとって、私との結婚生活はずっと耐える時間だったのでしょうか……。今になって、ようやく考えるようになりました」