(※写真はイメージです/PIXTA)
丁寧な暮らし系YouTuberと、製麺機への執念
最近のトシゴロウさんは、キッチンを整え、丁寧に料理を作る過程を配信する「丁寧な暮らし系YouTuber」の動画に没頭しています。無機質なステンレスのキッチン、美しく並んだ調理器具、そして手際よく仕上げられるパスタ。
彼はいま、上手に焼けるようになったピザの次に「生パスタ」の世界に魅了されています。強力粉と卵の配合を変え、何度も試作を繰り返していますが、どうしても「麺の太さを均一に切る」という工程で納得がいきません。
「ミドリ、やっぱり精密なカットには専用の機械が必要だ。パスタ製麺機の導入を本気で検討したいんだが」
トシゴロウさんは、数万円する本格的なパスタ製麺機のカタログを広げ、その機能性と「いかに麺の食感が向上するか」を熱弁しています。最初は悲惨な台所現場に先が思いやられていたミドリさんでしたが、失敗を糧に本気で研究を続ける夫の姿をみて、こんな老後もあながち悪くないと感じはじめています。
定年後の「役割」が夫婦を救う
トシゴロウさんの家事参加は、単なる趣味の領域を超え、家計と夫婦関係に以下の2つの大きな価値をもたらしています。
1.外食依存からの脱却による「家計の防衛」
総務省「家計調査(2025年分)」によると、65歳以上の無職世帯の食費平均は約8万5,000円です。注目すべきは、そのうち「外食」に費やされる金額が月額5,000円〜7,000円程度にまで抑えられている実態です。
トシゴロウさんが現役時代のように1,000円のランチを続けていれば、昼食代だけで月額3万円が消えてしまいます。自炊であれば1食300円とすると、1ヵ月で9,000円。トシゴロウさんが「お昼ご飯係」を引き受けたことで、理論上は月に約2万円の食費を浮かせていることになります。彼が凝って作る原価の高い料理や、欲しがっている数万円のパスタ製麺機は、この「浮いた食費」で、さらに楽しみを上乗せして十分にペイできる買い物といえるでしょう。
2.「見えないコスト」の分担によるQOL向上
内閣府「家事活動等の貨幣評価(2023年公表値)」の推計によれば、炊事や掃除などの家事労働を時給換算すると、1時間あたり約1,450円相当です。これまでミドリさんが一人で背負ってきた「炊事」という無償労働をトシゴロウさんが分担し、さらに片付けというマルチタスクを習得したことは、家庭内の労働コストを適正に再分配したことを意味します。 毎日1時間を昼食の準備と片付けに充てれば、月間で約4万5,000円分の労働価値を夫が家庭に提供している計算です。
仕事を辞める前のトシゴロウさんであれば絶対に欲しがることのなかったパスタ製麺機。こだわった機材によって、彼は、家計のダウンサイジングを単なる「我慢」ではなく、高いクオリティを伴う「新しい生活スタイル」に変換しようとしています。
厚生労働省「2023年 国民生活基礎調査」によれば、高齢者世帯の約48.3%が生活に苦しさを感じていますが、その多くは現役時代の支出習慣を捨てきれないことに起因します。バリバリのピザに本気で悔しがり、自らの手でコストを抑えつつ豊かな食卓を作るトシゴロウさんの挑戦は、退職金を目減りさせるだけの老後を防ぐ、楽しみを伴った思いがけない人生の新たな資産になるかもしれません。
丁寧な暮らし系YouTuberの真似をして、シンクをピカピカに磨き上げるトシゴロウさんの背中をみながら、ミドリさんは思います。「お疲れさま」は昨日まで。今日からの「面白い老後」は、まだ始まったばかりです。
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