「相続」は、時に予期せぬリスクを子世代へともたらします。プラスの財産だけを受け継いだつもりでも、後から発覚する「負債」が平穏な生活を一変させてしまうことも少なくありません。手取り22万円で暮らす51歳の男性が直面した過酷な現実から、私たちが備えておくべき相続の注意点と生活再建への道筋を考えます。
ロレックスを売っても足りない…〈手取り月22万円〉51歳男性、父の死後に「保証人請求」で生活崩壊。自己破産が頭をかすめる現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

実家は売却して終わりだと思っていた

「家を売った時点で、ひと通り片付いたと思っていました」

 

東京都内で清掃の契約社員として働く松本正雄さん(51歳・仮名)。現在の給与は手取りで月22万円で、築40年ほどのアパートで暮らしています。2年前、松本さんの父親が急逝し(享年82)、地方にある築古の一戸建てを相続しました。

 

「地方で、戻るつもりはない。維持費や税金のこともあるから、売ってしまったほうがいいと思いました」

 

売却額は約800万円でした。「これで老後も安泰とはいかないけれど、しばらくは大丈夫だ」と考えていました。しかしその後、状況は一変します。一体、何が起きたのでしょうか。

 

「父が生前に連帯保証人となっていた借入金について、主債務者の返済が滞ったことで請求が発生したのです。最初は何のことか分かりませんでした。調べていくうちに、父が保証人になっていた事実を知りました」

 

実家の売却で得た資金は、すべて負債の返済に充てました。

 

「タイミングが本当に悪かった。もっと早く知ることができれば相続放棄もできたのに……」

 

残された亡父の負債はあと200万円。どうやって払おうかと思い詰めていたとき、ひとつの考えが浮かびます。「“まだ売れるものがある”と思い出したんです」と松本さんは語ります。それはいったい何だったのでしょうか。

 

「父の形見である腕時計です。ロレックスの『デイトジャスト』でした」

 

早くに母親を亡くし、唯一の肉親だった父。だからこそ、この形見だけは手元に残しておきたいと考えていました。しかし、ある意味では父が遺した借金です。父の形見で片を付けるのは自然なことだと思い直したといいます。さらに松本さんには、ある期待がありました。

 

「ニュースで“ロレックスが高騰している”と見たことがあったんです。これで一気に完済できるのでは、と期待しました」

 

早速、高級ブランド品を専門に扱う店に持ち込んだところ、提示された金額は50万円。期待を大きく下回る査定額でした。理由は、メンテナンス不足や付属品の欠如だったといいます。

 

「それでも、少しでも借金が減ればと思って売却を決めました。ですが、焼け石に水でしたね」