(※写真はイメージです/PIXTA)
父の介護に全力を尽くした長女
千葉県内、先祖代々の土地に建つ戸建て住宅。 主を失ったリビングで、高橋美咲さん(51歳・仮名)は、父・正一さん(享年82歳・仮名)が遺した一通の遺言書を前に立ち尽くしていました。
美咲さんは10年前、離婚を機に実家へ戻り、正一さんと二人暮らしをしていました。 5年前に正一さんは脳梗塞を患い、後遺症で車椅子生活に。食事や入浴には介助が必要となりました。 美咲さんは近所のパートタイマーとして働きながら、深夜の排泄介助や通院への同行を続けてきたのです。
一方、都心にマンションを購入して暮らす兄の博之さん(54歳・仮名)は、盆や正月に顔を出す程度で、介護を手伝うことはなかったといいます。
四十九日を終えたあとに開封された遺言書には、驚くべき内容が記されていました。 「実家と土地のすべてを兄の博之さんに相続させる」「残った現金はすべて妹の美咲さんに相続させる」というもの。 評価額で見れば、土地・建物の方が現預金よりも遥かに高価値でした。 10年間の献身を無視されたと感じた美咲さんは、その場で言葉を失いました。
「兄さんは一度も介護を手伝わなかったのに、家を継ぐというだけでこれをもらうの。私は10年もここに縛られていたのに」
美咲さんの問いかけに、博之さんは申し訳なさそうな顔をしながら、一通の手紙を差し出しました。 それは遺言書に添えられていた、父からの付言事項でした。そこには、美咲さんが想像もしなかった父の真意が綴られていたのです。
「美咲、本当にありがとう。お前の優しさに甘えすぎてしまった」
「この古い家を相続すれば、先祖代々の土地に一生縛られることになる」
「もう十分だから、このお金で自分のためだけに生きてほしい」
先祖代々の土地は、長男である博之さんに負わせ、「実家という重荷」から美咲さんを解放する――。 それが亡くなった父・正一さんの願いでした。
「ずっとこの家で父と二人、世間から取り残されているような気がしていました。でも父は、私がここから出ていくことを一番に願っていたんですね」
