親子の関係は、時を経て「支える側」と「支えられる側」が逆転していくものです。 一方で、いつまでも子の力になりたいと願う親の思いと、寄り添いたいと願う子の間に生じるすれ違いも存在します。 私たちが限られた時間のなかで、悔いなき別れを迎えるために必要な視点とは何か。実例を通して考えていきます。
「お前はまだ子どもなんだから」92歳母が渡した“しわくちゃの1,000円札”…65歳息子が絶句した理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

負担をかけたくない親と、親に寄り添いたい子

かつては超えるべき高い壁であり、自分を導いてくれる存在だった親が、いつしか小さくなり、守るべき存在になる――。 この「役割の逆転」に戸惑い、その戸惑いを隠すために健一さんのように事務的な態度をとってしまうケースは少なくありません。

 

日本財団が実施した『人生の最期の迎え方に関する全国調査』では、親世代の95.1%が「家族の負担になりたくない」と回答しています。 その一方で、子ども世代の85.7%は「親と十分な時間を過ごしたい」と願っており、双方の意識はすれ違っているのが現実です。

 

静江さんが手渡したしわくちゃの1,000円札は、単なる小遣いではありません。 「負担をかける存在」になってしまった自分を否定し、最期まで「与える側(親)」であり続けたいという、92歳の矜持だったのかもしれません。

 

こうした親の誇りに触れられる時間は、私たちが想像するよりもずっと限られています。 厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、日本人の平均寿命は女性で87.13歳、男性で81.09歳。 健康寿命との差を考えれば、意思疎通ができる状態で親と向き合える時間は、それほど多くはないのです。

 

そこで大切になるのが、元気なうちからの「対話」です。 一般社団法人終活協議会が実施した『「終活の準備」に関する意識調査』によると、「身近な家族や大切な人との将来や生活に関する話し合い」について、「必要だと思うが、あまり話せていない」という回答が30.0%と最多でした。 意識と行動の間にギャップがある状況がうかがえます。

 

悔いのない別れを迎えるためには、親が何を大切にし、どう生きてきたのか。 そしてどのように最期を迎えたいのか。 それらを一つひとつ確認していくことが、今を生きる親子にとって何より大切な時間となるはずです。

 

 

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