内閣府の「令和6年版 高齢社会白書」では、高齢男性の「社会的孤立」が深刻な課題として浮き彫りになっています。近所付き合いや地域活動に参加しない男性の割合は女性より高く、退職と同時に「所属」を失う喪失感は想像を絶します。こうした孤独から逃れるための「人生リセット」としての地方移住。しかし、一方の妻も同じ気持ちとは限らず……。60代のTさん夫婦の事例から、夢の地方移住の現実的なリスクに迫ります。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「田舎に住みたいと言ったじゃないか…」胸を高鳴らせて5年準備した地方移住・引っ越しの日、大手メーカーを定年退職した65歳夫は激怒。大自然のなかでスローライフを望んだ60歳妻が「ドタキャン」したワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

5年の移住計画が「熟年離婚」に変わった日…まさかの「ドタキャン」理由

「わたしは一緒に行きません。ごめんね、離婚してください」

 

夫Tさんは、自分の耳を疑いました。

 

「え? どういうこと? なにをいってるのかわからないよ。もとはといえば、君が田舎に住みたいと言ったんじゃないか」

 

妻Aさんはまず、いままで黙っていたことを謝りました。そして話しはじめたのは、子どもたちのこと。娘2人は都内に住んでいて、それぞれ子供を出産する予定でした。同時に小さな孫ができると、いざとなったら母親の自分が駆け付けて助けてあげたいと思っていると言います。

 

次に、交友関係です。妻Aさんは、長年親しくしてきた友達がいます。陶芸教室やテニスサークル、ボランティア活動など、毎日充実した予定があるのです。この関係をリセットすることは自分にとって大損害でしかないと夫に伝えました。

 

さらに医療の問題。妻Aさんは40代のはじめに、軽い脳梗塞を経験しています。後遺症はほとんどないものの、60代に入っていつ再発するか不安です。血圧も170を超える日がたまにあります。「申し訳ないけど、あそこに住んで再発したら搬送が遅れて死んでしまうかもしれない」と切実な様子です。確かに、救急車が到着するまで30分以上もかかるような場所では命の危険がつきまとうことは否めません。

 

「私は、東京を離れたくない。ずっと気まずくていえなかったの。きっとあなたはもうここで暮らしたくないでしょうから、離婚するしかないと決めていました」

 

それを聞いて夫Tさんは唖然としました。正直な気持ちとしては妻が無責任に思えて腹が立ちました。早く言ってくれよという気持ちと、この5年間いろいろ調べてきた自分をみていながら、なぜ黙っていたんだという憤り。

 

「じゃあ、中止しよう。それでいいね?」夫Tさんは憮然としていいますが、妻Aさんはなおも翻しません。

 

「離婚する決意は固めているから。ごめんね」

 

実は、移住計画のすれ違いはひとつのきっかけに過ぎず、根底にあるのはそもそもの夫婦間のすれ違いだったようです。会社を居場所にして家庭を顧みなかった夫。1人で子育てをしてきた妻。子供たちが小さいころにもう夫への期待はなくなり、気持ちは離れていました。

 

夫はいつも思いつきで妻の本音も聞かずに振りまわしては、1人で満足していたのです。家族を放置してきた夫は、よく「家族愛」という言葉を使い、その都度、妻は寒気がする思いでした。夫が理想とする夫婦関係は妻にとっては白々しい絵空事でしかなく、妻はもう夫に付き合う気がありません。

 

定年退職をしたら妻の人間関係をすべて壊して、不便な田舎でスローライフごっこをしたいと望む夫。夫が早くに亡くなったら、妻はその後、1人でどうやってその田舎で暮らしていけばいいのか。夫にそんなビジョンなどなにもないことを、妻Aさんはわかっていました。「勝手に生きてきて老いた夫の孤独に付き合う気はない」。それが妻の本音だったのです。

 

「こんなのんびりしたところで暮らせたら幸せだろうね」。夫Tさんが聞いてその気になったその言葉の裏には、「少なくとも夫のあなたとではない」という前提があったことに、もっと早くに気づくべきだったのでしょう。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表

 

 

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