親には十分な蓄えがあるから、老後の備えは大丈夫――。しかし、たとえ通帳に十分な数字が並んでいたとしても、そうとは限りません。ある親子のケースから、高齢期の資産管理に潜む落とし穴と、今すぐ確認しておくべき「資産の即応性」についてみていきます。
預金残高「2,000万円」あっても払えない…実家のリフォームで発覚した、70歳母「使えるお金は112万円」の衝撃事実 (※写真はイメージです/PIXTA)

「残高はあるのに、引き出せない」

「悪いけど、今回はすぐにお金を出せないと思うの」

 

母からそう告げられたとき、都内に住む会社員の佐藤大輔さん(48歳・仮名)は、耳を疑いました。事の始まりは、亡父の一周忌。大輔さんは妹と相談し、実家で一人暮らしを続ける母・久美子さん(70歳・仮名)のために、実家を全面リフォームしてバリアフリーに対応した住まいにしようと提案しました。

 

「お父さんが遺してくれたお金があるでしょう? 俺たちも出し合うから、今のうちに安全な家にしておこうよ」

 

見積もりは約400万円。亡き父は堅実な会社員で、退職金や預貯金を合わせれば、母が一人で暮らしていくには十分な遺産があることを大輔さんは把握していました。しかし、母の返答は煮え切らないものでした。

 

「いや、お金がないわけじゃないの。でも払えないの」

 

不審に思った大輔さん。母の言葉の真意を探るなかで、初めて「資産の正体」を知ることになります。久美子さんの総資産は2,000万円ほどありましたが、その内訳は大輔さんの想像とは大きくかけ離れていました。

 

「普通預金には112万円しか入っていないのよ」

 

2,000万円にのぼる残高のうち、ほとんどが定期預金。日ごろ、自由に引き出せるお金は、総資産に対してほんのわずかだったわけです。

 

「『お金がある』というから、てっきり自由に使える状態だと思っていたのに……見当違いでした」と大輔さん。リフォーム計画は一から練り直すことになりました。

「定期預金なら安心」という思い込みが招く「資産凍結」リスク

大輔さんは、母・久美子さんがこれほどまでに普通預金を持たず、資産の多くを定期預金に集約させていた理由を尋ねました。久美子さんの答えは「昔から、大切なお金は定期にするものだと思っていたから」という、ごく一般的な感覚によるものでした。

 

しかし「高齢者の資産のほとんどが定期預金」という状態は、予期せぬリスクをはらんでいます。

 

一つは「認知機能の低下による資産凍結」です。もし今後、母の認知症が進行して判断能力が不十分だとみなされれば、たとえ家族であっても定期預金の解約は原則としてできなくなります。介護費用や医療費が必要になっても、数百万円単位のまとまった資金を引き出すには、家庭裁判所を通じた「成年後見制度」の利用など、煩雑な手続きと費用が必要になるのです。

 

そして「インフレによる資産の目減り」も挙げられます。昨今の物価上昇により、数年前なら買えたものが同じ金額では買えなくなっています。超低金利の定期預金では利息が物価上昇に追いつかず、実質的な購買力は低下し続けています。

 

 

さらに「ペイオフ(預金保険制度)の限界」も無視できません。1つの金融機関に1,000万円を超える元本を預けている場合、万が一その銀行が破綻すれば、超過分は保護の対象外となります。