令和7年の最低賃金改定の内容とクリニックへの影響
令和7年の最低賃金は、全国加重平均で66円引き上げられ、1,121円となりました。引き上げ率は約6.3%と過去最大規模であり、すべての都道府県で1,000円を超えました。
施行は令和7年10月以降、地域によっては年末や翌年初めとなります。クリニックにとっては、人件費の増大だけでなく、求人条件の更新、既存スタッフとのバランス調整、シフトや勤務時間の見直しが求められるなど、経営全体に広く影響する改定といえます。
着手すべき対応策① 最低賃金改定後のコストの精査
まず行うべきは、どのスタッフが引き上げ対象となるか、増額分は月間・年間でどれだけかを正確に把握することです。パート・アルバイトだけでなく、正社員でも時給換算で最低賃金を下回る設定があれば修正が必要です。現状の給与体系、シフト時間、残業代や休日手当の計算方法などを見直しましょう。
着手すべき対応策② 賃金体系と昇給ルールの整理と公平感の維持
最低賃金の上昇により、新しく採用するスタッフと長く勤めているスタッフの給与差が小さくなることがあります。こうした状況が続くと、既存スタッフが自分の経験や貢献が正しく評価されていないと感じる可能性があります。
勤続年数や業務範囲など分かりやすい基準を示し、昇給の考え方を共有することで納得感を高めることが重要です。
着手すべき対応策③ シフト設計と勤務時間の見直しによる無駄の削減
人件費を抑えるだけでなく、生産性を上げるため、シフトの最適化は不可欠です。ピーク時・閑散時の配置を再検討する、看護師や医療事務の兼務を見直す、診療受付・準備・片付け時間の扱いを明確化するなど、細かい運用の変更がコスト削減につながります。
着手すべき対応策④ 採用や求人条件の早急な見直し
求人票や募集条件を既存の最低賃金情報に基づいて更新することが必要です。また、新しい時給水準を見せることで応募者の安心感を得られる場合があります。求人媒体に記載する時給は、必ず地域別最低賃金を上回る金額に設定する必要があります。最低賃金改定の時期には、求人条件の表記を見直し、最新の水準に合わせて明確に示すことが重要です。
今後の動向を見据えた長期戦略の重要性
最低賃金の引き上げは一過性のものではなく、近年の物価上昇・労働市場の逼迫感を背景に今後も続くことが予想されます。政府の方針として「2020年代に全国平均1,500円」が掲げられており、クリニック経営においてはこの方向性を念頭に置くことが望まれます。
また、最低賃金以外にも業界競争力を保つため、働きやすさ・福利厚生・職場の雰囲気・研修機会といった非賃金的な要素が採用・定着において重要度を増しています。これらを整備しておくことは、中長期的な人材確保の鍵になります。
さらに、改定実施後は、実際の運用の中で最低賃金を下回る契約がないか、賃金計算の誤りがないかといったチェックを定期的に実施することがクリニックの信頼維持につながります。
引き上げを経営改善の契機に変える
最低賃金引き上げは、クリニックにとって避けがたい経営コストの上昇を意味します。しかし、これを単なる負担と捉えるのではなく、賃金体系の整備・シフト設計の見直し・職場の魅力強化といった改善の機会と位置づけることで、経営の安定につながります。
開業を希望するドクターにとっては、開業準備段階からこのような賃金動向を見込んで予算を組むことが成功のカギとなります。診療報酬や収益構造だけでなく、人件費見直しを含む総合的な経営計画を立てることをお勧めします。
山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士

