(※写真はイメージです/PIXTA)

人材不足となった開業医が真っ先に考えるのが「給与の引き上げ」です。物価高が続く昨今、賃金増加は確かに重要ですが、医療従事者が求めているものはそれだけではありません。厚生労働省の調査によると、「給与への不満」は看護師の離職理由の約20%に過ぎず、「職場の人間関係」「労働環境」「将来への不安」といった要因が上位となっています。ここでは、人材戦略の根本的な解決方法を見ていきます。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

令和時代の働き⽅の変化と従業員のニーズ

令和に入り、働き方に対する価値観は大きく変化しました。とくに若い世代の医療従事者は、以下のような要素を重視する傾向があります。

 

ワークライフバランスの実現:残業時間の削減、有給休暇の取得しやすさ

職場での成長機会:スキルアップのための研修参加、キャリアパスの明確化

働きやすい環境:ハラスメントのない職場、チームワークの良さ

社会貢献への実感:自分の仕事が患者様や地域社会に与える価値の実感

柔軟な働き方:子育てや介護との両立、多様な勤務形態への理解

「クリニックの理念」「目指す医療の方向性」を共有する

まず、クリニックの理念や目指す医療の方向性を明確に示し、スタッフと共有することが重要です。単に「患者様のために」という抽象的な表現ではなく、具体的で魅力的なビジョンの提示が欠かせません。

 

【具体例】

「私たちは、地域の高齢者が住み慣れた自宅で安心して過ごせるよう、在宅医療に特化したクリニックを目指します。」

 

「スタッフ一人ひとりが『患者様の生活の質(QOL)向上』という共通の目標に向かって連携し、外部の組織と交えてチーム医療を実践していきます。」

 

理念の共有のため、最低月1回はスタッフミーティング開催を推奨します。院長からクリニックの経営状況・今後の診療方針と決めごと、スタッフからも業務改善提案や意見を自由に発言できる時間を確保することで、全員がクリニック運営の一員であるという意識を高めます。

昇給基準の明確化とスタッフの成長サポート

昇進や昇給の基準を明確にし、定期的な面談を通じて個々のスタッフの成長をサポートする仕組みが必要です。目標設定から評価まで、透明性を保つことで従業員の納得感と成長意欲を高めることができます。

 

【具体例】

スタッフは自分が何を頑張れば評価されるのかが明確になり、モチベーションが向上します。近年では、来院患者数・患者満足度などを指標にインセンティブを加算するクリニックも増加してきました。

 

医療事務スタッフの場合

「患者様からの感謝の声の数」「院内業務改善提案の件数」といった目標も評価項目に加えます。

 

看護師の場合

「家族という社会の最小単位としたケアとコミュニケーション能力」「業務改善に至った提案」なども評価対象とします。

教育・研修制度の充実

外部研修への参加費用の負担、院内勉強会の定期開催、資格取得支援など、スタッフの専門性向上を支援する制度の整備が重要です。これは従業員のモチベーション向上だけでなく、クリニック全体の医療レベル向上にもつながります。

 

【具体例】

外部研修支援

看護師や医療事務職員なども参加ができる学会などに対して日当・交通費・宿泊費などを補助する。

 

院内勉強会

月に数回、トレンドとなっている医薬品や新しい医療機器、検査について、該当する企業の講師を招いたり、来院患者のなかで共有したい症例の発表などを行う。

ワークライフバランスの重要性

医療機関は24時間365日の対応が求められ、個々のスタッフに過重な負担をかけることは適切ではありません。適切な休憩時間の確保、有給休暇取得の奨励などで、オンとオフのメリハリをつけた長く働き続けやすい環境づくりが重要です。特に子育て世代のスタッフに対しては、短時間勤務制度の導入(例:3歳になるまで)、急な休みに対する理解、保育園のお迎え時間への配慮など、柔軟な対応が求められます。

 

【具体例】

子どもの病気や学校行事への配慮

急な休みを想定し、普段からスタッフ間の役割分担を明確にし、情報共有を徹底する「バックアップ体制」を構築します。

 

介護や子どもの不登校、障害への理解

「家族の介護が必要になった」「子どもの不登校で付き添いが必要になった」「障害を持つ子どもの通院やケアで休みを取る必要がある」といった内容が近年増加傾向にあります。それぞれの家庭環境を理解したうえでの配慮と共有により、スタッフが連携して思いやりを持ちながら、勤務をしやすい雰囲気を作ることが重要です。

「契約社員」という立場を原則NGとする理由

医療現場において雇用形態は原則として長期雇用を前提とした正社員またはパートタイマーが原則となります。これには以下の理由があります。

 

チーム医療の質の維持

頻繁にスタッフが入れ替わると、チームワークが崩れやすく、患者様との信頼関係を築くことが難しくなります。受付で会計する時間が長くなる、看護師や医療事務の連携ができないなど弊害が生じます。

 

教育・研修への投資

スタッフの専門性向上には、継続的な教育・研修が不可欠です。契約期間に制約がある契約社員の場合、長期的なスキルアップ計画を立てることが困難になります。

 

将来への安心感

スタッフが将来にわたって安心して働き続けられる環境を提供することにより、スタッフ定着率や患者へのおもてなし能力の向上に直結します。昇給をさせたくない、という金銭的な理由での契約社員としての雇用は、スタッフの定着率や安心感の低下にもつながり、増患にも悪影響を及ぼします。

良好なコミュニケーションと組織⽂化の形成

良好なコミュニケーションは、優秀な人材が長く働き続ける職場の必須条件です。定期的なスタッフミーティング、個人面談、そして日常的な声かけを通じて、風通しの良い職場環境を作ることが重要です。

 

また、失敗を責めるのではなく改善の機会として捉える文化、チームワークを重視する組織風土、患者様からの感謝の声をスタッフと共有する習慣など、ポジティブな組織文化の醸成に努めましょう。

 

【具体例】

ポジティブな組織文化

「ミスをしたスタッフを皆でフォローする」という文化を醸成し、定期的なミーティングで「最近あった嬉しかったこと」を共有する時間を設けることで、受け入れてくれる家族的な雰囲気の醸成が勤務での安心感を高めます。

持続可能なクリニック経営のために

令和の時代に選ばれるクリニックになるためには、賃金だけでなく、働きがい、成長機会、職場環境、そして人間関係など、多面的なアプローチが必要です。これらの要素を総合的に考慮した人材戦略を構築することで、優秀なスタッフの獲得と定着を実現できます。

 

医師の皆様には、医療技術の研鑽と同様に、人材マネジメントスキルの向上にも取り組んでいただきたいと思います。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師