有名大学を卒業し、大手企業で順調にキャリアを積んでいた自慢の長男が、37歳にして「FIRE」を宣言。6,000万円の資産で投資生活に入ると言うのですが、定年を迎えたばかりの石川さん(65歳、仮名)には理解の範囲を超えた選択でした。本当にお金は足りるのか? そして何より、働かない息子を誇りに思えるのでしょうか。FIREの課題と解決策について、FPの青山創星氏と一緒に考えてみましょう。
「父さん、僕はもう一生働かない」…資産6,000万円、大手企業勤務の37歳長男が意気揚々と〈FIRE宣言〉。3ヵ月後、65歳父の不安が倍増した「息子の変化」【FPの助言】
親にしかできない「最後の仕事」
永瀬さんはお金の話を終えた後、声のトーンを変えてこう切り出しました。
「石川さん、実はお金よりも心配なことがあります。息子さんには、FIREして何をしたいのかという目標がありますか?」
石川さんは言葉に詰まりました。健太郎さんの口から出たのは「自由になりたい」「働きたくない」という言葉ばかりで、自由になって何をするかは聞いた覚えがありません。
「そこが最大のリスクかもしれません」と永瀬さんは言いました。
やりたいことがあってFIREするなら、それは素晴らしい選択です。しかし「働きたくない」だけが動機なら、社会から孤立し、生きる意欲そのものを失いかねない——。永瀬さんの指摘に、石川さんは昼の2時にパジャマ姿で「友達に会えない」と寂しそうに笑った息子の姿を思い出していました。
「息子さんの選択を全否定すべきではありません。15年で6,000万円を築いた努力は率直にすごいことです。ただし、完全リタイアではなく少額でも安定収入を得続ける『サイドFIRE』が現実的です。パートタイムでもボランティアでもいい。社会との接点を保つことが、資産の寿命だけでなく、息子さん自身の心と体の健康を守ることにつながります」
そのうえで永瀬さんはこう提案しました。
「今日お話ししたリスクを、感情ではなく事実として伝えてみてください。親の小言ではなく客観的な事実として届きやすくするため、私のようなFPを間に挟むのも1つの方法です。『お前は間違っている』ではなく、『一緒にライフプランを確認してみないか』と。計画の穴を一緒に埋めてあげること。それが親にしかできない仕事だと思います」
FIREの理想と現実、その先に必要な対話
FIREという選択自体は、一つの生き方です。しかし計画には盲点がつきものです。
4%ルールの前提条件、退職後の社会保険料負担、少ない年金、繰上げ受給で失う障害年金という安全網、そして目的なき自由がもたらす孤立と心身の衰え——。これらを知ったうえでの判断と、知らないままの判断では、人生の結末はまるで違います。
大切なのは夢を否定することではなく、現実の数字と自分自身に向き合うこと。それが、FIREを目指すすべての人と、その家族への教訓ではないでしょうか。
帰り道、石川さんは健太郎さんにLINEを送りました。
「この前は言い過ぎた。今度、もう一度ちゃんと話さないか」
深夜に届いた返信はたった一言、「いいよ」でした。
ファイナンシャルプランナー
青山創星