長年住み慣れたわが家で、穏やかな老後を送る――。そんな当たり前が、子どもの一言で揺らいでしまうことがあります。ある親子のケースから、「住まいの終活」について考えます。
この家は売ってほしい…帰省中の45歳長男、衝撃の一言。年金18万円・72歳夫婦が初めて知った「持ち家老後」の現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

正月の食卓で突如浮上した「実家の売却問題」

地方で暮らす小林正夫さん(72歳・仮名)。地元の設備会社を65歳で定年退職し、現在は妻の和子さん(70歳・仮名)と二人で生活しています。

 

主な収入は夫婦の年金を合わせた月額約18万円。自営業の期間もあったため、正夫さんの年金は月11万円強と、会社員の平均より少なめです。しかし住宅ローンはすでに完済しており、築38年の自宅で落ち着いた生活を送ってきました。

 

「好きなことをやってきたから、少々年金が少ない。しかし普段の生活は年金だけで十分ですし、老後を見据えて、少ないなりに貯金に励んできました。贅沢はできませんが、不自由を感じたことはありません」

 

しかし今年の正月、そんな穏やかな日々に衝撃が走ります。東京で会社員として働く長男の亮介さん(45歳・仮名)が、家族を連れて帰省した際のことです。夕食後の団らんの最中、亮介さんはふと問いかけました。

 

「そういえば、この家って将来どうするつもり?」

 

正夫さんは戸惑いながらも「ここに住み続けるつもりだけど」と答えます。しかし、亮介さんは少し言いづらそうに、具体的な提案を口にしました。「もしよかったら、元気なうちに売ることも考えてほしい」。この一言で、にぎやかだった食卓の空気は一変。和子さんは「急にそんな話になるとは思っていませんでした」と、その時の驚きを振り返ります。

 

亮介さんの言葉には、子世代なりの現実的な理由がありました。「自分たちは東京で生活しているし、この家を相続しても住む予定はないと思う」と断言したのです。さらに「将来空き家になると管理も大変になるから」と、維持管理の負担を懸念していることを説明しました。

 

正夫さんはその言葉を聞き、「子どもなりに現実的に考えているのだろう」と理解を示します。実際、自宅は築38年が経過。外壁や屋根の本格的な修繕が必要な時期に差し掛かっています。数年前に見積もりを取った際、修繕費は数百万円にのぼると告げられていました。「年金生活で大きな工事をするのは簡単ではありません」と正夫さんは現在の経済的な制約を認めます。

 

一方で、和子さんには割り切れない思いもありました。「ここで子育てもしましたし、思い出も多いんです」と話す通り、長年暮らしてきた家には深い愛着があります。しかし、家の劣化は確実に進んでいる。直視したくない現実を突きつけられた気がしました。

 

この日を境に、夫婦は「老後の住まい」を真剣に検討し始めました。それまで、この家で最期まで暮らし続けることを当然の前提としてきましたが、もし将来どちらか一人が欠けた場合、広い戸建ての管理が残された側の重荷になる可能性は否定できません。

 

「住み続けるのか、それともどこかで住み替えるのか。すぐには答えを出せそうにありません」と正夫さんは胸中を吐露します。