「年金は繰下げ受給をすれば一生涯、増額された受給額が維持される」――。昨今の物価高や長生きリスクへの危機感から、受給を遅らせる選択をする人が増えています。しかし、そこには制度の「落とし穴」が潜んでいます。ある男性のケースを見ていきましょう。
月30万円のはずが…「年金の繰下げ」を決めた70歳サラリーマン、「振込額が少ないぞ!」と乗り込んだ年金事務所で撃沈。年下妻なら知っておきたい「年金ルール」 (※写真はイメージです/PIXTA)

繰下げ受給の裏に隠された「加給年金の消滅」という落とし穴

佐藤さんが陥ったのは、年金制度の中でも特に複雑な「加給年金」と「繰下げ受給」の相性の悪さです。

 

1.加給年金は「増額」の対象外

大きな誤解として、繰下げによって増額(1カ月あたり0.7%)されるのは、あくまで「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」のみです。厚生労働省のホームページや日本年金機構の資料にも明記されている通り、付随する「加給年金」や「振替加算」は繰り下げても1円も増えません。

 

2.「待機期間中」は受給権が眠ったまま消えていく

さらに深刻なのが、佐藤さんのように「繰り下げている間」の扱いです。加給年金は厚生年金に上乗せされるものですが、本体の厚生年金を繰り下げている間は、加給年金も自動的に「支給停止」となります。

 

重要なのは、「待機が終わった後に、過去の分を遡って一括請求することはできない」という点です。加給年金は、配偶者が65歳になるまでという「期間」に対して支払われるもの。佐藤さんのように8歳年下の妻がいる場合、本来なら最大で約318万円(年額39万7,500円×8年)を受け取れる権利がありました。

 

しかし、5年間の繰下げを選択したことで、その期間に対応する約200万円分は、受給することなく期間が経過し、消滅してしまったのです。

 

3.「額面」の増加に忍び寄る、社会保険料の壁

佐藤さんが感じた「手取りの少なさ」も、繰下げ受給の大きな罠といえるでしょう。自治体の算出基準によれば、年金額(所得)が増えれば、住民税や所得税だけでなく、国民健康保険料や介護保険料も連動して上昇します。

 

 

これらを加味すると、額面が42%増えても、実際の手取り額の伸びは3割程度に留まるケースも珍しくありません。加給年金のような「非課税の家族手当」を捨ててまで額面を増やすことが、実質的な「生涯の手取り総額」でプラスになるには、80代後半以降の長生きが必須条件となります。

 

年金受給に関する後悔は、損得勘定に由来するものが多いようです。あくまでも年金は現役世代の保険料で高齢者を支える仕組みなので、自分たちが納めた保険料とは切り離して考える必要があります。

 

しかし、現役時代に「こんなに引かれるのか」と何度もため息をついた元サラリーマンにとって、損得抜きに語るのは難しいことでしょう。だからこそ、勝手な思い込みは捨て、正しい知識による判断が重要なのです。