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「もらえる年金が減るなんて…」年金の一部が支給停止となる〈在職老齢年金〉
「ノリアキさんの場合、お給料と年金の合計額が基準を超えているため、年金の一部が支給停止となっています」
詳しく聞くと、給与(標準報酬月額など)と年金(老齢厚生年金)の合計が一定の基準額を超えると、超過した分の半額が支給停止になるルールの対象者となっていたのです。
ノリアキさんを落胆させた「在職老齢年金」と呼ばれる制度は、2026年(令和8年)4月に支給停止の基準額が緩和され、「65万円」へと引き上げられたばかりでした。しかしノリアキさんの場合、給与48万円と年金21万円の合計が69万円となり、新基準の65万円を「4万円」オーバーしたため、その半額である「月2万円(2ヵ月支給分で4万円)」の年金がカットされていたのです。
「月2万円のカットでも、年間で24万円の損です。基準額が緩和されたとはいえ、一生懸命働いたのに年金が減るなんて……。最初から減額するのがわかっていたなら、出勤日数をセーブしていましたよ」
稼ぎすぎると年金が減る事実を目の当たりにしてから、社会の役に立ちたいという純粋な勤労意欲を削がれてしまったノリアキさん。翌月からは週3日勤務にシフトを減らしてもらうことにしたそうです。
「働けるうちはいつまでも」が4割超…就業意欲のあるシニアを阻む年金制度の実態
ノリアキさんのように定年後も高い意欲を持って働き続ける高齢者は、近年増加傾向にあります。内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、「何歳ごろまで仕事をしたいか」という問いに対して、「75歳くらいまで」「80歳くらいまで」「働けるうちはいつまでも」と回答した割合の合計が全体の4割を超えており、シニア層の就業意欲は年々高まっていることが読み取れます。
また、内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によると、高齢者が働く理由として、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」や「自分の知識・能力を生かせるから」といった前向きな理由も少なくありません。ノリアキさんが「社会とのつながりを持ちたい」「長年培った資格と経験を活かしたい」とフルタイムでの再就職を選んだのは、多くのシニアに共通するモチベーションであると推測されます。
しかし、こうした意欲あるシニアの前に立ちはだかるのが「在職老齢年金」という制度です。日本年金機構の資料にもある通り、高齢者の就労促進を背景に、2026年(令和8年)4月より在職老齢年金の基準額は「50万円」から「65万円」へと引き上げられました。これにより多くのシニアが年金カットを免れるようになりましたが、ノリアキさんのように高度な専門スキルを活かして高い給与を得られる「優秀なシニア」がフルタイムで働くと、依然としてこの新しい「65万円の壁」にぶつかってしまいます。
国全体で高齢者の就労を推進し、シニア自身も「社会の役に立ちたい」と願っているにもかかわらず、専門性を活かして稼ぐほど年金が減らされ、結果的に労働時間をセーブしてしまう。ノリアキさんが勤務時間を減らしたという現実は、基準額が引き上げられたあとでも完全には解消しきれない、制度の歪みを浮き彫りにしています。
[参考資料]
内閣府「令和7年版高齢社会白書」
内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和6年)」
日本年金機構「老齢年金生活者支援給付金の概要(2026年4月1日)」