理想の環境を求めて踏み出した地方移住。長年の努力で住宅ローンを完済し、安泰な老後を目前にした矢先、個人の力ではどうすることもできない「外部要因」によって生活が揺らぐことがあります。ある男性のケースを見ていきます。
「こんなはずじゃなかった…」老後資金2,000万円・59歳男性、地方移住15年目の絶望。突然の観光客殺到で日常崩壊 (※写真はイメージです/PIXTA)

急増するインバウンドとオーバーツーリズムの影

日本政府観光局によると、2025年の年間訪日外客数は4,268万3,600人で、前年比15.8%増を記録しました。過去最高だった2024年の3,687万0,148人をさらに塗り替え、更新し続けています。

 

好調なインバウンドの一方で、静かな地方が予期せぬ観光需要の急増によって「住みやすさ」を奪われるオーバーツーリズム(観光公害)が深刻な問題となっています。

 

近年、SNSの普及により特定の地域へ観光客が集中する現象が加速しました。観光庁の『オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ(令和5年)』によると、観光客の増加に伴い、交通渋滞、ゴミ問題、騒音、私有地への侵入といった住民生活への悪影響が全国各地で顕著になっています。公共交通を地元住民が利用できないケースも多く、生活基盤の崩壊を招いています。

 

また、観光バブルは一部の事業者に経済的恩恵をもたらす一方、佐竹さんのような一般住民には「生活環境の悪化」という負の側面のみを強いる傾向があります。これが地域社会における深刻な感情的対立の火種となります。

 

こうした地域社会の分断や環境悪化に対し、行政の対策が追いつくのを待つのは現実的ではありません。そこで一つの選択肢となるのが「住み替え」です。

 

佐竹さんのケースでは、急激な環境変化がきっかけとなりそうですが、地方移住においてこうしたミスマッチは決して珍しいことではありません。15年前の移住当時には予測できなかったSNSの普及やインバウンドの爆発的増加は、個人の努力では抗えない外部要因です。

 

せっかく住宅ローンを完済し、老後資金を蓄えていても、居住環境そのものが崩壊しては意味がありません。幸い、観光地化によって地価や物件価値が上がっているのであれば、家を高く売却して別の静かなエリアへ移る原資に充てることも可能です。

 

「終の棲家」という言葉に縛られすぎず、変化に応じて動ける柔軟性を持ち、資金的・心理的な準備をしておく。それが、地方移住における「まさか」に対応する鍵となるでしょう。