(※写真はイメージです/PIXTA)
隣人が見せた「3年間の快適」の代償…住まいの引き際
東京在住の佐藤博之さん(74歳・仮名)。5年前に妻を亡くし、1人で住んでいる自宅は、築40年の一戸建てです。15年前に一度、キッチンと浴室のリフォームを済ませていますが、建物自体の劣化は隠しようもありません。
外壁はあちこち塗装が剥がれ、手で触れると白い粉がつく「チョーキング現象」が起きています。雨樋には枯葉が詰まり、大雨が降るたびに溢れた水が地面を叩く音が、寝室まで響くといいます。
「直したほうがいいと思いつつ、100万円か、200万円か、はたまたそれ以上か……。年金月16万円の生活は、はっきりいって楽ではありません。なかなか踏ん切りがつかず、ただ時間ばかりが流れていきました」
そんななか、佐藤さんの隣家が大規模リフォームを決断します。最新の断熱改修、バリアフリー化、そして外壁塗装。人生最後の大リフォームとして、1,000万円近い大金を投じたそうです。
「隣のご主人は笑いながら『これから20年、30年と安心して住むためには、今これくらいかけておくのが正解だと思って』と胸を張っていました。一方で、奥さんは『老後の蓄えが大きく減って、やりくりが本当に大変よ』と漏らしていましたね。そう言いながらも生活は快適そうで、常にご夫婦は楽しそうでした。そんな2人をみるたび、私の気持ちもリフォームへと傾いていったんですが……」
事態は唐突に動きます。リフォームからわずか3年後、あんなに「将来のため」と大金を投じた隣人が、夫婦揃って介護施設へ入居することになったのです。
ご主人の急激な認知症の進行と、それを支える奥さんの体力の限界。1,000万円かけて手に入れた「終の棲家」は、たった3年で主を失い、空き家となりました。その後、夫婦の子どもによって売却され、他人の手に渡ります。1,000万円かけてリフォームした家は取り壊され、また新しい家が建ちました。
「あれほどのお金をかけて、住めたのはたったの3年。あの大金があれば、施設の入居一時金や月々の支払いに、どれほど余裕が持てたことか……」
その光景をみた佐藤さんは、憑き物が落ちたような感覚になったといいます。
「もう、家にお金をかけるのはやめました。雨漏りさえしなければ、あとは住めたらいい。私、1人ですし、雨風をしのげればそれで十分だと思ったんです」
佐藤さんは、予定していた大規模な修繕計画をすべて白紙に戻しました。どれほど家を立派に整えても、いつまでそこで暮らせるかは分かりません。そこに大金を使うのは、ギャンブルと同じではないか――。
「この前、少し費用を払ってプロに点検してもらったんですよ。地震は怖いので。耐震性に問題があるなら仕方ないかなと思いましたが、基礎がしっかりしているから大丈夫だと言われました。それで一層、家にお金を使わない決心がつきましたね」