長年、会社のために身を粉にして働いてきた会社員にとって、定年退職時に受け取る「退職金」は、第二の人生を支える最大の柱といえます。しかし、いざ現役生活の終盤を迎え、示された現実に目を疑う人も少なくありません。ある60歳で定年を迎える男性のケースを見ていきましょう。
は?退職金が少ないんだが…定年を心待ちにしていた60歳元部長、「最低でも3,000万円のはずが…」絶句。通知書で知った“役職定年”の落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

最低でも3,000万円と思っていた退職金が……

都内の中堅企業で営業部長を務めていた加藤浩二さん(60歳・仮名)。定年退職を半年後に控え、人事部との最終キャリア面談で提示された「退職金支給見込額通知書」を見た瞬間、思考が停止しました。

 

「……1,820万円。桁を見間違えたのかと思いました。同期の出世頭で、年収1,300万円を維持してきた自分なら、最低でも3,000万円はあると、何の疑いもなく信じ込んでいたんです」

 

加藤さんは30代で課長、40代後半で部長に昇進。かつての先輩部長たちが3,000万円以上の退職金を受け取り、悠々自適に海外旅行を楽しむ姿を見てきました。当然、自分もその列に並べるものだと確信していたのです。しかし、人事担当者の口から出た言葉は、あまりに事務的で冷徹なものでした。

 

「加藤さんのポイント加算は、55歳の役職定年時にほぼピークアウトしています」

 

会社が10年前に導入した「ポイント制退職金制度」。当時は忙しさにかまけて詳細を聞き流していましたが、この制度こそが誤算の正体でした。ポイント制とは、勤続年数や職能給、役職に応じて毎年ポイントが積み立てられる仕組みです。加藤さんは、ポイントが定年まで「右肩上がり」に増え続けると思い込んでいました。しかし実際には、部長職を降りた55歳以降の5年間、役職ポイントの付与がゼロになるだけでなく、基本給に連動する習熟ポイントも、役職定年後の減給に伴って一般社員と同等の水準まで低く設定されていたのです。提示された1,820万円という数字は、定年までの残り半年間で増える見込みがほとんどない「確定値」だったのです。

 

さらに、追い打ちをかけたのが「手取り」の現実です。退職所得控除を差し引いても、住民税や所得税を考慮すれば、口座に振り込まれる実額は1,500万円を切る可能性が高い。住宅ローンの残り800万円を返せば、手元に残るのは老後資金としてはあまりに心もとない金額です。

 

「部長という立場であれば、退職金も相応の額が支払われるものだと思い込んでいました。会社での地位や貢献度が、そのまま老後の資金に反映されるという認識は、現在の制度では通用しなかったのです」