離婚危機……。「良き夫」として家庭を支えてきた自負がある人ほど、その衝撃は計り知れません。昨今の離婚相談の現場では、明らかな背信行為がないにもかかわらず、突然の別れを突きつけられるケースが後を絶たないといいます。ある夫婦のケースをみていきます。
「君のためを思って言ってるんだ」年収1200万円・45歳夫が絶句。良かれと思って放った“正論LINE”が「離婚の決定打」になった理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「正しいことを言って何が悪い」という、埋まらない夫婦の溝

都内の大手メーカーで課長職を務める佐藤健一さん(45歳・仮名)は、法律事務所の相談室で、目の前の弁護士に問いかけました。

 

佐藤さんは、月収約80万円、ボーナスを含めた年収は1200万円を超える、いわゆる高所得者層です。仕事の傍ら資産形成にも励み、45歳という若さで35年の住宅ローンを完済。専業主婦の妻・美紀さん(43歳・仮名)と2人の子供に、何不自由ない生活を提供してきた自負がありました。

 

しかし、ある日、自宅のポストに入っていたのは、美紀さんの代理人弁護士から届いた「受任通知書」。そこには、離婚協議の開始とともに、佐藤さんへの「直接連絡の禁止」が明記されていました。

 

佐藤さんには、身に覚えがありませんでした。不倫も暴力もなく、週末は家族サービスに努めてきた。しかし、弁護士が提示した資料には、佐藤さんが日常的に妻へ送っていたLINEの履歴が、日付とともに詳細に記録されていたのです。

 

『掃除の仕方が非効率だよ。この手順でやれば10分短縮できる。もっと頭を使いなさい』

『献立の栄養バランスが偏っている。子供の成長を考えたら、もっとこうすべきだ。親としての自覚が足りないんじゃないか?』

『君のためを思って言っているんだから、感情的にならずに聞きなさい。反論する前に、自分の非を認めるのが筋だろう』

 

佐藤さんにとって、それは晴天の霹靂でした。住宅ローンを早々に完済し、子どもの教育費も準備し、世間から見れば「非の打ち所がない夫」として家庭を支えてきたからです。佐藤さんは、相談室で弁護士に対し、必死に弁明しました。

 

「納得がいきませんでした。すぐに妻に電話しましたが、着信拒否。訳が分からず、私は指定された弁護士事務所に向かいました。そこで突きつけられたのは、私が良かれと思って日常的に送っていたLINEのコピーと、数年分にわたる妻の『苦痛の記録』でした。私は妻を愛していましたし、良くなってほしかっただけなんです。社会人として、あるいは親として、正しい基準を示してやるのが夫の役割だと思っていました。少し言い方が厳しくなったことはあっても、それは家族を思ってのこと。それがなぜ、裁判でも通用するような『離婚の理由』になるのか、まったく理解できませんでした」

 

佐藤さんは、これらはすべて「妻を良くするためのアドバイス」だったと主張しました。しかし、弁護士の回答は冷徹でした。

 

「佐藤さん、奥様はこれらの発言を『継続的な否定』と受け止め、心身に不調をきたして心療内科を受診されています。診断書もあります。あなたが『教育』だと思っていた言葉は、法的には精神的虐待(モラルハラスメント)に該当し、婚姻関係を破綻させる正当な理由になり得るのです」

 

佐藤さんは、自分の「正論」が法的な場では「攻撃」として扱われることに困惑し、何度も反論しようとしました。しかし、妻側は数年分の発言を日記に書き留め、さらには家庭内での会話を録音していました。

 

「『不満があるならその場で言ってくれれば、年収に見合った生活を維持できるよう改善したのに』と言いましたが、後の祭りでした。弁護士を介して届いたのは、改善の要求ではなく、関係を終わらせるための事務的な手続き。私が良かれと思って放った一言ひと言が、すでに修復不可能なレベルまで、法的な離婚理由として積み上がっていたのです」