定年後、「利便性」を最優先して都会に住み続けることが、必ずしも正解とは限らないようです。あえて不便な環境に身を置くことで得られる価値とは何か。ある夫婦のケースを見ていきます。
年金月17万円・60代夫婦、都内マンションを売却して「あえて不便な離島」へ移住。車必須の生活でも笑っていられる理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「不便を楽しむ」という贅沢

東京の中堅メーカーで営業として働いてきた高橋正雄さん(66歳・仮名)と、専業主婦として家庭を支えてきた妻の幸子さん(64歳・仮名)は、年金生活をスタートさせたタイミングで、南国の離島に引っ越してきました。

 

60歳の定年時に受け取った退職金は約2,000万円。その後、再雇用で65歳まで働き、退職金は丸々残っていました。さらにコツコツと貯めてきた預貯金が1,500万円ほどあります。正雄さんの年金は月17万円ほどで、30年近く住んでいた都内のマンションのローンもすでに完済しています。

 

質素倹約を貫けば、安泰な老後も約束されていました。しかし、二人は都内のマンションを売却。移住先の離島では、古い一戸建てを借りて住む道を選んだのです。

 

「東京にいたころは、どこへ行くにも電車とエスカレーター。便利すぎて、自分がどんどん動かなくなっていくのを感じていたんです」と正雄さんは振り返ります。

 

なぜ、あえて不便な離島だったのか。それは「温暖な気候」が正雄さんの持病である腰痛を和らげ、幸子さんの冷え性を改善してくれるのではないかという期待からでした。そして何より、限られた年金生活の中で趣味の釣りを存分に楽しむためには、都会よりも固定費のかからない地方が合理的だと判断したのです。

 

「たまたま、今借りている家が見つかって。いずれ病気や介護でここにいられなくなったとき、家を買ってしまうと後が大変です。賃貸のほうがリスクが低いと判断して決断しました」

 

島の生活は、東京とはまったく違います。近くにコンビニはなく、日常使いのスーパーまでは車が必須。急な買い物は億劫なため、週に1度、買いだめをする生活です。

 

「東京にいたころは、調味料が切れたらすぐ買いに出かけていました。今は、ないならないなりに、どうにかする。不便も楽しむ余裕ができました」

 

こうした「足るを知る」生活を送っているためか、無駄な出費が減り、以前よりも家計はかなり楽だといいます。また、意識的に体を動かす環境が功を奏したのか、腰痛の症状もだいぶ改善されました。妻の幸子さんも、今では冷え性で悩むことはほぼないといいます。

 

「見よう見まねで畑を耕し、採れたての野菜を近所とお裾分けし合ったり。そんな『手間』のかかる交流も、東京では得られなかった贅沢ですね」

 

今のところ、南国暮らしに大満足だという高橋さん夫婦。当初、子どもたちは移住に大反対だったそうです。

 

「『そんな不便なところへ行って、万一、病気にでもなったらどうするんだ!』と散々怒鳴られましたよ。しかし、この前、孫を連れて遊びに来たとき、以前より健康的な私たちを見て安心したようです」