(※写真はイメージです/PIXTA)
天井近くまで積まれたペットボトルの「中身」
錆びついた階段をのぼり、インターホンがないので木製のドアをノックしますが、応答はありません。恐る恐るカギのかかっていないドアを開けると、そこには想像を絶する光景が広がっていました――。
酸っぱいようなむわっとした臭いとともに目に入ってきたのは、6畳一間の壁際に、天井近くまで整然と積み上げられていた2リットルのペットボトル。ラベルはすべて剝がされており、その数は、ざっとみても50本以上はあります。
「兄ちゃん!?」思わず大きな声を出すと、奥の布団がもぞもぞと動きました。
「……なに」「兄ちゃん、俺だよ。おい、これなんだよ、やばいやつ? おい、早まんなよ!!」
弟が問い詰めると、ボサボサ髪の兄は長い沈黙のあと、頭を搔きながらポツポツといいました。
「……これ、ただの水だよ。毎晩、0時回ってからそこの公園のトイレで汲んできてるんだよね。けっこう重いから、何往復かすれば、運動にもなるしな。これがあれば、トイレを流すのも、体を拭くのもタダ」
兄は、周囲の目を盗んで公衆トイレの水を汲み、それを生活用水のすべてに充てていたのです。さらに、冬場にもかかわらずガス代を浮かすために一度も給湯器を使わず、公園の水で冷えた体を拭くだけで済ませていました。
「こうすれば、月に数千円は浮く。その数千円が、俺にとっては1週間分の食費なんだ」
兄のあまりの変わりように、弟は拒絶感を覚えました。小さいころは真面目で優しかった兄が、たった数千円のために夜な夜な公園で水を盗んでいる――。その惨めさと、どうしようもない境遇への怒りが混ざり合い、血がつながっていることすら嫌気がさします。
「兄ちゃん。それは節約じゃない、窃盗だよ。捕まったらいまの仕事もクビだと思うよ」
「帰ってきなさい」母の涙と、一時的な解決
コウヘイさんは母親に事実を報告。愕然とした母親は「そんな生活、もうやめなさい」と泣きながらユウジさんを説得し、結果としてユウジさんは15年ぶりに実家へ戻ることになりました。
実家での家賃なし三食付きの生活により、ユウジさんの顔色はみるみる回復し、危うい節約からも解放されました。しかし、これでは根本的な問題解決になりません。