定年を迎えた多くのサラリーマンが再雇用を選択しています。現役時代に近い環境で働き続けられる安心感がある一方で、そこには収入の大幅な減少や、変わらぬ責任の重さといった「理想と現実のギャップ」が潜んでいます。そんな道を選びながらも、突然、会社を辞める決断をした男性のケースを見ていきましょう。
もう疲れました…61歳商社マン、再雇用も突然のリタイア。年金の繰上げ受給開始で「受取額2割減」でも笑顔でいられるワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

老後のダウンサイジングと、統計にみる高齢者の幸福度

サラリーマンの収入には、2つ、または3つの崖があるといわれています。まず、役職定年時。それまで手にしていた役職手当がなくなることで、収入が減ります。次に定年時。正社員から再雇用制度で契約社員や嘱託社員になった際、収入は3~4割、場合によっては5割以上減少します。そして最後が、完全にリタイアして年金生活を始めるときです。

 

60代を境に収入は大きく変化しますが、それは支出も同様です。総務省『家計調査 家計収支編 2025年平均』によると、勤労世帯の1ヵ月の消費支出は平均34万6297円。世帯主が55~59歳の世帯に限ると平均36万1304円です。一方、高齢夫婦無職世帯の1ヵ月の消費支出は平均26万3979円。世帯人員が減るため支出が減るのは当然ですが、1ヵ月の家計収支は平均4万2434円の赤字となっています。不足分をカバーするには、貯蓄の取り崩しが避けられません。その額が多ければ多いほど貯蓄が底をつく日は早まるため、老後を前に家計のサイズダウンは欠かせないというわけです。

 

注目すべきは、内閣府『満足度・生活の質に関する調査』などの意識調査です。高齢層において、必ずしも「高収入=高い幸福度」という相関が強く出るわけではありません。むしろ、「他者との比較」から解放され、自己決定権を持っていると感じている層ほど、精神的な満足度が高い傾向にあります。

 

多くの高齢者が「老後資金の不足」から無理な就労を続ける一方で、佐藤さんのように「自分の生活を収入の枠内に収める」ことに成功した人は、経済的な不安を精神的な充足感で補っています。社会的な承認を追い求める段階から、自分自身の平穏を最優先する段階への移行といえるでしょう。

 

また、佐藤さんの自宅には、会社員時代の名残を感じさせるものはほとんどないといいます。数年前からは、長年続けてきた年賀状も辞めました。

 

「年賀状を書きながら、『この人とはもう10年も会っていないのに、なぜ出しているんだろう』と疑問に思ったんです。義務感で繋がっている縁を一つずつ整理していくと、人間関係も身軽になった。セカンドライフにおいて、大切にしていきたい、大切にしなければいけない縁がしっかりと見えてきました」

 

老後、支出はもちろん、人間関係も身の丈に合わせていく。それによって大きな満足が得られるケースもあるようです。