高齢者によるいたましい交通事故を避けるため、70歳以上で免許返納に踏み切る人は少なくありません。しかし、交通手段の乏しい地方都市では、免許返納によって車に乗れないことが高齢者の行動を抑制し、心身の老化を促進してしまうおそれもあります。今回は子どもたちの勧めによって70代で免許を返納した男性の事例から、身体能力の衰えを自覚してからの対策についてCFPの松田聡子氏が解説します。
また同じこと言ってる…貯蓄2,500万円・年金月23万円で穏やかに暮らす76歳父に異変。家族が勧めた「免許返納」の大きな代償【CFPが解説】
「返納ありき」ではない選択肢
高齢者の運転免許返納の判断は本人の能力だけでなく、住環境なども考慮する必要があり、一律の基準があるわけではありません。ここでは、吉田さん一家が選択できた他の方法について考えていきます。
返納のきっかけとなった軽微な事故を起こしたときには、まずは以下のように運転能力を客観的に把握するとよかったのではないでしょうか。
・高齢者講習を受ける
・ドライブレコーダーで運転状況を記録
・分析 ・専門家による運転能力診断サービスの活用
運転能力の衰えを自覚した場合、安全運転サポート車(サポカー)への乗り換えも検討に値します。自動ブレーキ、車庫入れ支援、車線逸脱警報など、最新の安全装備が高齢者の弱点を補ってくれます。
また、運転技能は継続的な訓練によって維持・向上できます。早い段階からトレーニングを始め、継続することで、より長く安全な運転を続けることが可能になります。
功さんは運転免許を返納したことによる交通費負担が気になり、好きなゴルフをやめてしまいました。吉田家には月23万円の年金に加え、2,500万円という資産がありました。さらに、功さんが乗らなくなったことで、年間40万円ほどの車の維持費も浮いていたのです。
元気なうちに好きなことを我慢せず、ある程度の予算を楽しみのために振り分ける余裕はあったはずです。健康な人が、交通の便のよくない地方で車に乗らずに生活するには、ある程度のタクシー代は必要経費ともいえるのではないでしょうか。
免許返納で大切にすべき視点
運転免許返納は、重大事故を防ぎ、他者の命を守るうえで重要な選択の一つです。しかし、返納後の生活環境が整わないまま外出機会が減れば、社会的孤立が進み、心身の健康に悪影響を及ぼす恐れもあります。
返納するべきかどうかに一律の答えはありません。重要なのは、「返納した場合、その後どうなるのか」を納得いくまで考えることです。移動手段や人とのつながりを確保できてこそ、免許返納は安全と生活の質を両立する選択になります。
返納ありきで結論を急ぐのではなく、本人の生活や環境を踏まえて、最も安全で納得のいく形を選ぶことが大切です。
松田聡子
CFP®