家族を想うがゆえの選択が、時として残酷な決断を伴うことがあります。特に少子高齢化が進む現代日本において、親の介護と子のキャリア維持の両立は、多くの家庭が直面する切実な課題です。ひと組の親子の事例を通じ、共倒れを防ぐための方法を考えていきます。
「もう帰ってこなくていい。この家を出ていきなさい…」月収28万円・48歳娘が実家を出た日、年金月18万円・75歳父が泣いた理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「介護離職」と「キャリアダウン」が招く、現役世代の深刻な貧困リスク

総務省『2022年(令和4年)就業構造基本調査』によると、過去1年間に介護・看護を理由に離職した「介護離職者」は10.6万人にのぼります。その内訳を見ると、女性が約8.1万人と圧倒的に多く、年齢層では45歳から54歳という、職場で中核を担う世代が中心となっています。

 

明美さんのように、完全に離職せずとも、正社員から契約社員やパートへと雇用形態を変更する「キャリアダウン」を選択するケースも少なくありません。しかし、これは長期的に見て極めて高いリスクを伴います。厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』によると、20歳から60歳まで正社員の場合と、非正規社員の場合とでは、生涯賃金で1億円以上の差が生じます。

 

また、もし50代から10年間、非正規社員になった場合と、引き続き正社員だった場合を比較すると、約3,600万円もの差となります。50代からのキャリアは老後を見据えた資産形成に大きな影響を与えるばかりでなく、現役時代の収入差はそのまま年金の受取額にも反映されます。介護離職やキャリアダウンが、親亡き後の子どもの老後に甚大な影響を与えることは想像に難くありません。

 

なぜ、介護離職やキャリアダウンを選択してしまうのか。その背景には、佐藤さんのように、親が「自宅で過ごしたいと希望している」というケースもあるでしょう。公的介護保険制度の枠組みでは、在宅介護を維持するために外部サービスをフル活用すると、自己負担額が跳ね上がり、世帯収入を圧迫します。結果として、家族による「無償の労働」で穴埋めをせざるを得ない状況が生まれるのです。

 

健一さんが選択した「施設入所」は、一見すると家族の絆を断ち切る行為のように見えますが、「子の老後破産」を防ぐための現実的な最善策といえます。介護を家族だけで抱え込まず、外部の施設や専門家に委ねることは、現役世代の就業機会を守り、経済的な自立を維持するために不可欠なプロセスなのです。