老後を支えるのは、豊かな資金か、それとも温かな家族の絆か。 超高齢社会を迎えた日本において、その両方を手にしているはずの人が、思わぬ落とし穴に直面しています。ある独居高齢男性が直面したシビアな現実とは?
「私たちは赤の他人なんで。」緊急連絡先に元妻を指名した〈年金月17万円・72歳男性〉、入院で突きつけられた〈身勝手な幻想〉の代償 (※写真はイメージです/PIXTA)

身元保証人の不在リスクと孤立の深淵

佐藤さんの受給する「年金月17万円」という金額を客観的に見てみましょう。 『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金(第1号)受給者の平均年金月額は15万1,142円、65歳以上の受給権者に限ると月17万3,033円です。実際に月17万円以上受け取っているのは31.3%。佐藤さんの受給額は、経済的には十分に「中流の生活」が維持できる水準だといえるでしょう。

 

しかし、医療や介護の現場では、金銭的な支払い能力以上に「誰が責任を持つか」という身元保証の有無が問われます。 総務省『高齢者の身元保証に関する調査(令和4年)』では、病院の92.4%が入院時に身元保証人を求めているという実態が明らかになっています。同調査では、保証人がいないことで入院手続きが停滞したり、希望する施設への入居を断られたりするケースも報告されています。

 

さらに、国立社会保障・人口問題研究所『生活と支え合いに関する調査』によると、「周囲に頼れる人がいる」と回答した割合は、単身高齢女性の79.1%に対し、単身高齢男性は52.4%と、20ポイント以上の差が生じています。 佐藤さんのように離婚を経験した男性は、地域社会や親族との繋がりが希薄になりやすく、「かつての家族」に依存するケースも珍しくないようです。

 

法的に離婚が成立した時点で、配偶者としての義務は完全に消滅します。離婚の経緯などによっては、子どもが一方の親側につき、もう片方の親とは疎遠になることも少なくありません。前出の田中さん曰く、佐藤さんのように離婚後、元配偶者や子どもたちと疎遠になるのは、特に男性側に目立つといいます。

 

十分な年金を受け取り、日々の暮らしを支えることはできても、年金はいざというときまでの「身元」を保証してはくれません。独居高齢男性が直面するこのシビアな現実に対し、元の家族に根拠なくすがるのではなく、元気なうちに任意後見制度や民間の身元保証サービスの利用を検討するなど、準備を整えることが重要です。