老後を支えるのは、豊かな資金か、それとも温かな家族の絆か。 超高齢社会を迎えた日本において、その両方を手にしているはずの人が、思わぬ落とし穴に直面しています。ある独居高齢男性が直面したシビアな現実とは?
「私たちは赤の他人なんで。」緊急連絡先に元妻を指名した〈年金月17万円・72歳男性〉、入院で突きつけられた〈身勝手な幻想〉の代償 (※写真はイメージです/PIXTA)

元妻なら助けてくれる…独居男性の過信

「高齢の単身男性を支援する現場で、私たちはしばしば不可解な光景を目にします」

 

そう語るのは、高齢者福祉の相談員を務める田中聡子さん(52歳・仮名)です。

 

「男性の場合、『最後は家族が何とかしてくれる』という根拠のない自信を持っていることが多いのですが、そこには大きな意識の乖離があります。結果、本当に助けが必要なときに困ることになるのです」

 

佐藤和男さん(72歳・仮名)も、そんな自信を持っていたひとりでした。 佐藤さんは現役時代、大手メーカーの関連会社で働き、現在は月額17万円の年金を受給して暮らしています。都内の賃貸マンションでひとり暮らしを謳歌し、金銭面での不安は一切感じていなかったといいます。

 

「お金さえあれば、誰にも迷惑をかけずに生きていける。そう思って自由気ままに暮らしてきました。でも、冬の寒い日に浴室で転倒し、腰を強打して動けなくなったとき、その自信は一瞬で吹き飛びました」

 

自力で救急車を呼んだ佐藤さんは、搬送先の病院で入院手続きを求められました。窓口で「緊急連絡先」を問われた際、彼は迷わず15年前に離婚した元妻の連絡先を告げました。

 

「離婚以来、家族とは疎遠になり、元妻とは一度も連絡を取っていませんでした。しかし20年以上連れ添った仲です。元妻なら私の持病なども知っていますし、こんな状況だと知れば、せめて入院の手続きくらいは手伝ってくれるだろうと思っていました」

 

しかし、病院のソーシャルワーカーがその番号に電話を入れた際、スピーカーから流れてきたのは、佐藤さんの期待を無情に切り裂く言葉でした。

 

「佐藤さん? ああ……申し訳ありませんが、私たちは赤の他人です。今の私には私の生活がありますし、もう関わるつもりはありません。病院の手続き? 役所かどこかで対応していただいてください。二度とかけてこないでください」

 

そのやり取りを間近で聞いていた佐藤さんは、愕然としたと振り返ります。 

 

「彼女のなかで、私はもう存在しないも同然だった。子どもたちも母親側についていて、私がどうなっても知ったことではない。何だかんだいっても、自分には『家族』があると思っていましたが、私だけの身勝手な幻想だったんです」

 

結局、佐藤さんの入院は自治体の協力で進められましたが、退院後の施設探しでは身元保証人がいないことがネックになりました。年金月17万円で安定した生活を送っていながらも、誰にも頼れない現実に震えているとのことです。