現代の日本において、「8050問題」は、親が90代、子が60代となる「9060問題」へと移行しつつあります。親の年金や蓄えに頼り、平穏な日常を維持している世帯は少なくありませんが、そのベースは非常に危ういバランスの上に成り立っています。特に、子の世代が定年を迎える年齢になっても経済的に自立できていない場合、親の介護や病気、あるいは相続のタイミングで、一気に生活が破綻するリスクを孕んでいるのです。
親が死んだらどうするんだ…「年金月20万円」88歳父から「月5万円の小遣い」をもらい、のほほんと暮らす63歳息子。ある日チラ見した「預金通帳」に顔面蒼白のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「親の年金があるから大丈夫」と信じて疑わなかった63歳息子の誤算

都内・築50年の戸建てに住むという、佐藤敏男さん(88歳・仮名)とそのひとり息子の佐藤健二さん(63歳・仮名)。敏男さんの妻(健二さんの母)は10年前に他界し、現在は2人暮らしだといいます。

 

健二さんは就職を機に実家を出て、その後、結婚。順風満帆な人生かと思われましたが、30代後半で離婚を経験し、さらに当時働いていた会社では人間関係に悩み退職。当時を「大変な不幸が同時に直撃するとは思ってもみなかった」と振り返ります。

 

これを機に実家に戻りますが、メンタルヘルスの不調からひきこもり気味に。その後、回復したものの、「高齢の親の世話をする」という名目で、事実上、無職の状態が続いたといいます。

 

「父は大手メーカーに勤め、結構、上の役職までのぼりつめた人。私が子どものころも、周囲と比べて、結構いい暮らしをしていたそうです。今も月に20万円ほどの年金があります。私の生活費含めて、父の年金だけで十分暮らしていけると思っていました」

 

敏男さんは元来、息子には甘い性格で、自立できない健二さんを責めることはありませんでした。それどころか、健二さんが身の回りの世話をすることを条件に、毎月5万円の小遣いを渡していたといいます。健二さんはそのお金で、趣味の古本収集や喫茶店巡りを楽しむなど、世間の荒波から遮断されたような穏やかな生活を送っていました。しかし、その平穏は、敏男さんの体調悪化によって突如として崩れ去ります。

 

「昨年の夏ごろから父の足腰が急激に弱まり、自宅での入浴や食事が困難になりました。介護認定を受けた結果、要介護2と判定され、デイサービスや訪問介護を利用することになったんです」

 

介護サービスの自己負担分は、敏男さんの年金から捻出されました。しかし、それだけでは済みませんでした。以前から患っていた持病の通院費に加え、大人用おむつなどの消耗品代、さらには老朽化した自宅のバリアフリー改修費用など、想定外の出費が次々と重なっていったのです。

 

ある日、健二さんは敏男さんに頼まれ、生活費を下ろすために父の預金通帳を手に取りました。これまで「父には十分な蓄えがあるはずだ」と信じ込み、一度も中身を確認したことはありませんでした。

 

「通帳を開いた瞬間、血の気が引くのがわかりました。何千万円もあると思っていた残高が、わずか200万円ほどになっていたんです」

 

かつて敏男さんが現役時代に築いたはずの貯蓄は、知らぬ間に底を突きかけていたのです。

 

「通帳には、毎月決まった引き出しがあって。きっとそれは、私への小遣い。貯蓄を切り崩して渡してくれていたんです。年金だけで十分暮らしていると思っていたのは、とんだ勘違いだったわけです」

 

敏男さんが亡くなったら、年金月20万円もなくなります。健二さんに残されるのは、築50年を超える家と、自身のわずかな年金だけ。「親が死んだらどうすればいいんだ」と自問自答する日々だといいます。