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金庫からみつかった、一見「役に立たない」遺言書
Aさんが87歳で旅立ったあと、親族が揃って金庫を恐る恐る開けました。中から出てきたのは、公正証書ではなく自筆で書かれたと思われる「遺言書」と記された封筒。開封した子どもたちが目にしたのは、あまりにも「曖昧な」文言でした。
「自宅は次女以外の3人でわけなさい」
「アパートは次女に任せます」
「残ったお金は4人で仲良くわけなさい」
この遺言書だけでは相続手続きをスムーズに進めるのは困難といわざるを得ません。「自宅」や「アパート」がどの不動産を具体的に指すのか特定できず、売却するのか共有するのかも不明瞭。登記などの各種手続きを進めるには、法的な要件が極めて不十分だったのです。
「え? これをみてなにをすればいいの? このままでは泥沼化する……」次女が生前抱いていた不安は的中し、相続手続きに暗雲がたちこめました。
母の「呪い」と「愛」が覆した結果
ところが、封筒の中には、もう一枚の便箋が入っていました。そこに記されていたのは、財産のわけ方ではなく、家族へのメッセージでした。
夫との思い出、6人での家族旅行の楽しい記憶、そして遠く離れた子どもたちへの変わらぬ愛。特筆すべきは、文末に記された一文でした。
この「Aさん節」全開のメッセージを読んだ瞬間、4人がそろった室内の緊張感は一気に溶けました。兄姉たちが思い出したのは、母の楽しそうな笑顔と、それを陰で支え、月20万円の賃料を守り続けてくれた次女の姿です。きょうだいで一番上の長男がいいます。「本当にお母さんらしいね。これまでお母さんのことを次女に任せきりで悪かったね。ありがとう。お母さんの気持ちをみんなで尊重しよう」弟妹も笑顔でうなずきます。きょうだいたちの反応に、次女は思わず泣き崩れてしまいました。
法的な不備はあったものの、子どもたちは母の思いを汲み取り、次女のこれまでの貢献を正当に評価する形で分割協議をスムーズに成立させたのでした。