高級マンションの厳重なオートロックも、24時間監視のカメラも、この「敵」の前では無力です。彼らは正面玄関からは来ません。あなたが毎日行っている「ある習慣」の隙を突き、血流という裏ルートを通って、最も守るべき司令塔(脳)へと到達します。気づいたときには、もう手遅れかもしれない――。そんな戦慄の事実を知り、歯科医院のドアを叩いた一人の女性がいました。彼女を追い詰めた「恐怖の正体」とは。本記事では、幸町歯科口腔外科医院院長兼MBAホルダーの宮本日出氏が、認知症の原因となる「歯周病菌」の脅威と、資産を守るための「口腔ケア」の重要性について解説します。
怖い、怖い……72歳富裕層の女性が突然「歯医者」に駆け込んだ理由。“高級マンション並みの厳重警備”すらもすり抜ける「恐怖の侵入者」の正体
「症状がないから安心」という誤解
「私は毎日歯磨きしているし、痛みもないから大丈夫」吉川さんのように、そう思っている人ほど、実は危険かもしれません。特に、吉川さんのように自己管理能力が高い人ほど陥りやすい罠があります。
歯周病は「サイレントキラー」です。痛みなく進行するケースがほとんど。歯周病菌は、歯ぐきの神経を麻痺させる毒性を持つため、痛みが出るのは歯のグラグラが進行した末期に近い状態になってからです。しかしこの段階では、多くの場合、抜歯しか治療手段がなくなっています。
「完璧な歯磨き」でも届かない“3mmの死角”
さらに、どんなに完璧な歯磨きをしても、防げない領域があります。それが、歯と歯ぐきの境にある溝「歯周ポケット」です。一般的な歯ブラシの毛先が届くのは、深さ1〜2mm程度まで。しかし、歯周病菌は酸素を嫌うため、歯周病が発症・進行すると、このポケットは深くなります。3mmより深くて狭い隙間で安全に増殖し、せっせと毒素を製造し続けます。つまり、表面をどれだけ磨いても、地下組織では毒素工場がフル稼働している可能性があるのです。
歯磨きが完璧だと自負している人ほど、安心しきってプロケア(歯科医院での歯周病対策)を怠り、実は歯周病に蝕まれている、といったことが珍しくありません。自信とは裏腹に認知症リスクをはじめ、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などのリスクを静かに上げてしまっているのです。
では、自分では届かない「3mm以下の闇」に潜む菌をどうすればよいのでしょうか。答えはシンプルです。定期的に専門家による「一斉清掃」を取り入れることです。
歯科医院で行う歯面清掃(プロケア)は、普段の歯磨きでは落とせない歯にこびり付いた癒着菌(バイオフィルム)を除去できます。歯ブラシでは到達しない深い歯周ポケットの清掃も可能です。
プロケアの間隔はお口の状態により異なりますが、癒着菌は除去後1ヵ月で再癒着するので毎月受けてもよいでしょう。その人のリスクによっても内容は変わるため、唾液検査でリスク判定をすることもできます。
また、自宅でできる対策として、下記の2点も有効です。
1.「粘膜」のケア:口の中の面積の70%は、歯ではなく粘膜です。少量の水(約30ml)で行う「全力5秒うがい」は、粘膜の除菌に効果的とされています。
2.「舌」の清掃:舌の表面は菌の温床となり、口臭や誤嚥性肺炎の原因菌が生息します。舌ブラシを使って、表面に付着した汚れ(舌苔)を除去しましょう。
もし、歯を失って治療を受ける際は、質の高い治療にこだわることが重要です。失われた食べる機能(咀嚼機能)をしっかりと回復させると、脳内の血流が活発になり、認知症予防になります。咀嚼機能が低いとサルコペニア(筋肉の衰え)やフレイル(全身のヨボヨボ)、要介護(寝たきり状態)のリスクが増します。
「いくら資産があっても、判断できなくなったら終わりですものね。まさか最大のリスクが、私の口の中にあったなんて」
リスクの全体像を理解した吉川さんは、そう深く納得し、自身の資産管理ポートフォリオに「定期的な口腔ケア」を新たに組み込むことを決めました。
健康こそが、すべての資産の土台です。痛みというアラートが鳴ってからではなく、リスクが顕在化する前に対処する――。それはビジネスや投資の世界では当たり前の鉄則でしょう。あなたの「歯周ポケットの奥」には、将来の資産を脅かすリスクが潜んでいないか。まずは自身の健康管理という名の「監査」を、一度見直してみる価値はあるはずです。
宮本日出
幸町歯科口腔外科医院・院長
歯科医師・歯学博士