60代が転びやすい根本原因

定年後、嘱託社員として都内に勤務する佐藤さん(仮名/67歳男性)は、歯周治療で歯医者さんに通っています。ある日、診療室で歯科医師にこんなことを話しました。

「通勤中に体がぐらつくことがあるんだよね」「やっぱり、歳かな」

佐藤さんは6ヵ月前に上下の奥歯を抜いて、初めて入れ歯を入れています。生まれて初めての入れ歯だったので「上手く使えるかな」と少し不安げな声を漏らしていました。それを思い出した歯科医師は佐藤さんにいいました。

「最近、普段は入れ歯を入れていないのではありませんか?」

佐藤さんは驚いた顔で返します。

「えっ!? 実は、どうも入れ歯を入れるのに慣れなくて、サボっちゃって……。でも、どうしてわかったのですか?」

80歳以上の不慮の死亡事故3割は「転倒」

このデータをご存じでしょうか? 高齢になるほど転倒リスクは上がり、特に80歳以上の不慮の事故による死亡原因の3割を占めます(厚生労働省)。これは交通事故死を上回る数字で、人生100年時代を迎えるわが国の新たな社会問題となっています。

転倒は打ちどころによっては、頭部外傷で命を落とすという最悪の事態も散見されます。年齢とともに骨も脆くなるため、転倒で骨折、特に大腿骨を骨折すると寝たきりになるケースが非常に多くなります。一旦寝たきりになると、筋力の低下が普通に生活しているより7倍早くなるといわれ、骨折が治ってからも寝たきり状態から抜け出せないこともしばしばあります。

つまり転倒は日常の「ハプニング」ではなく、その人の人生を大きく変えてしまう「事件」になり得るのです。

では、なぜ人は転びやすくなるのでしょうか? 多くの人は「足腰の衰え」と考えるでしょう。加齢とともに筋力は低下しますから、それももちろん正解です。でも足腰の衰え以外にも、想像できない原因が隠されています。

冒頭の佐藤さんのケースを思い出してください。「体がぐらつく」と聞いて、なぜ歯科医師は「入れ歯を入れていない」ことを見破ったのでしょうか?