(※写真はイメージです/PIXTA)

慢性的な人手不足が続く医療業界では、医師・看護師・医療事務などいずれの職種であっても、就労者は労働条件に敏感になっています。法律上求められる労働条件通知書のポイントについて解説していきます。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

「激務は当然」という感覚は過去のもの

医療業界では長年人手不足の状況が続いていますが、社会保険労務士である筆者の肌感覚では、クリニックに雇用される医師・看護師・医療事務スタッフはとくに近年、労働条件をシビアにチェックしている印象があります。

 

なかでも、一定以上の年齢のドクターのなかには、ハードワークを当然のものと考えている方も多いようですが、いまの時代、その認識のままでは危険です。経営側と雇用側に強い摩擦が生じ、場合によっては一斉退職といった最悪の事態にもなりかねません。

 

いまの時代、労働条件に無頓着でいることはクリニック経営のリスクです。院長が最低限認識しておくべき基本事項を見ていきましょう。

よく似ている「労働条件通知書」と「雇用契約書」だが…

「労働条件通知書」と「雇用契約書」は似たような意味合いに思える言葉ですが、内容は少し異なります。

 

労働条件通知書は、労働基準法15条に定められた書類であり、勤務地や休日、賃金の額などさまざまな事項が含まれています。「通知書」という言葉通り、雇用主が一方的に交付するものになります。

 

雇用契約書は、労働条件通知書と記載事項はほぼ同じですが、「契約書」であり、労使がサイン捺印をして、双方が合意をしていることを証明するものです。

 

法律上求められるのは労働条件通知書ですが、双方が合意したことを証明するという意味では、雇用契約書も重要な書類になります。両方作成する場合もあれば、労働条件通知書兼雇用契約書という形で兼用するクリニックも多くあります。

 

ごく稀に「労働条件通知書も、雇用契約書も作成していない」というクリニックがありますが、ルールがない状態で働くのは労使ともにリスクでしかありません。労働者としても、入社の際にまずは発行を依頼するべき書類です。

基本的な労働条件を確認する

雇用契約書では、まず基本的な労働条件が自分の期待や法的な基準に合っているかを確認します。賃金の項目を例に注意すべきポイントを説明します。

 

◆医師の場合

常勤医師の場合、年俸制を置くクリニックも少なくありませんが、「年俸制=残業し放題」ではありません。年俸制の場合でも割増賃金の支払い義務はありますので、年俸を決める際には割増賃金の支払いを考慮して金額を決定する必要があります。

 

臨時医師の場合、日当や時間給で支払うパターンが多いですが、筆者は日当よりも時間給で支払うことを推奨しています。日当の場合、8時間でも10時間でも1日〇万円など金額を固定で支払われているケースがあります。常勤医師同様、原則1日8時間、週40時間を超える場合は割増賃金の支払いが必要になります。

 

一方で時間給ですと、時間管理ができていれば、少なくとも1.25倍の割増賃金のうち、1.0の部分は支払われます。時間管理にも労使ともにシビアになるので、日給に比べて後から問題が発生したとしても未払い賃金は少なくなります。

 

◆看護師の場合

看護師は1年目と10年目でどのように差異をつけていくのかを考えます。「在籍年数の長い人=パフォーマンスが高い」わけではありませんが、在籍年数の長い人ほど退職時の穴埋めが大変になるケースも多いはずです。クリニックとしてなにを重要視するのかを先に決め、それを給与に落とし込む作業を進めましょう。たとえば、基本給だけではなにをどのように評価されているのかわかりづらい一方で、下記のような手当を導入することで、労使ともに評価ポイントがクリアになります。

 

スキル給:「○○の業務が1人でできるようになれば○○円」など、あらかじめ基準を決めておく。

 

役職手当:リーダーや主任など、役職や立場に応じて支給する手当。もちろん役職だけでなく、職務や職責を決めておくことで、発生する負荷に対して支払う手当であることを明確にしておく。

 

◆医療事務の場合

「エース級の方はクリニックの生命線」といい切る院長もいるほど、クリニックにとって医療事務は重要な存在です。気を付けるべきポイントとして看護師同様、スキル給や役職手当のほかに、周辺の求人相場にもアンテナを張っておくことをおすすめします。

 

医師や看護師に比べて給与水準が低い医療事務ですが、近年では最低賃金の上り幅が大きく、毎年8,000~9,000円の昇給をしないと、最低賃金に追いつかれる計算になります。昇給幅が上がるにつれて、高い生産性や業務の効率化が求められる職種になりつつあります。

労働条件通知書に記載しなければならない事項とは

賃金を含め、労働条件通知書では、下記の(1)~(6)は必ず明示しなければならない事項となっています。そして(7)~(14)は、制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。

 

ただし、就業規則に労働条件が具体的に規定されている場合は、就業規則を交付すれば、再度同じ事項について書面を交付する必要はありません。

 

[図表]労働条件通知書に明記しなければならない事項と制度を設ける場合に明示しなければならない事項

今回のまとめとポイント

クリニックに限らず、労使でトラブルになるのは下記の点が多いといえます。

 

●給与面

●労働時間(平均的な残業時間やシフトパターン)

●休日(有給休暇を含む)

●人間関係

 

まず、面接時や内定前において、労働条件について1項目ずつすり合わせを行い、労使双方の認識を一致させておきましょう。そうすることで、働き始めてからのイメージがクリアになり、早期離職を防止できます。労働条件で合意できない場合は、経営側は採用の見送り、雇用側は選考辞退という選択肢もあります。人手不足を理由に採用ハードルを下げるのは、クリニックとスタッフの双方にとって、よい方向にはいきません。

 

賃金を含めたクリニックのルール作りは、院長1人で悩むのではなく、社会保険労務士の活用がお勧めです。

 

 

山本 達矢
社会保険労務士法人WILL

代表社労士

特定社会保険労務士