(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックにおいても病院同様、患者様の安全確保は最優先事項です。しかし、診断ミスや連携ミスといった医療過誤発生のリスクはゼロにはできず、万一のことがあれば、行政措置への発展、さらには経営への打撃もありえます。本稿では、実例を交えながら、クリニック運営における医療過誤のリスクとその予防のポイントを解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

診断ミスの防止に有益となる、多職種による問診・検査・画像診断

軽症にみえる患者様でも、重症化を予測したうえで慎重な診察・診断を行わなければ、適切な治療の遅れや誤った治療に繋がり、患者様に深刻な影響を与える可能性があります。

 

ここでは、診断ミスの実例と防止方法について見ていきましょう。

 

◆実際にあった診断ミス

診断ミスの事例1

発熱・咳嗽・呼吸困難で受診した80歳の男性患者に対し、詳細な問診と身体所見をとらず、インフルエンザ・コロナの迅速検査のみを実施。陰性を確認し、上気道炎(かぜ)と診断。しかし、帰宅後に症状が悪化し近隣の救急病院に搬送され、精査の結果、急性心不全・心筋炎と診断されICUに入院となった。

 

診断ミスの事例2

自費の健康診断で実施した胸部X線写真でわずかな陰影が見られ、経過観察と判断した。数ヵ月後、患者が呼吸困難を訴え、他院で画像検査を再検査したところ、進行した肺がんと診断。手術が困難となり化学療法・放射線治療となった。

 

◆留意すべきポイント

丁寧な問診による情報収集と共有

診断ミスの防止のために必要となるのは、丁寧な問診の実施と危機意識を持った診療体制です。患者さんの主訴だけでなく、既往歴、アレルギー歴、内服薬、生活習慣など、各職種が重複をしてもよいので聴取して記録に残し、情報を共有することが重要となります。

 

曖昧な点は患者さんに確認し、先入観を持たずに情報を集める姿勢が求められます。

 

鑑別診断の意識

診断の際は、重症化・重篤な疾患の存在を念頭におき、症状を軽視せず先入観を持たない診療が必要となります。患者さんの症状から考えられる複数の疾患を念頭に置き、それぞれの可能性を否定していくプロセス(鑑別診断)を徹底することが重要です。

 

前述の風邪と思いきや心不全・心筋炎である、肺の陰影の異常が進行がんであったなどは典型的なピットフォールとなります。

 

患者様への丁寧な説明

ただ診断結果を伝えるだけでなく、考えられる他の可能性や、追加の検査が必要な場合はその理由などを患者様にわかりやすく説明し、理解と協力を得るように努めます。この時は、医師のみならず看護師・医療事務など多職種でのコミュニケーション対応が重要です。

 

また、医師以外のスタッフが「この患者様は本当に帰宅させて大丈夫か」、「何かおかしい」と診断に疑問を持ったとき、医師に速やかに提案・報告・質問ができる組織風土の醸成も重要です。コミュニケーションがとれていないと、重症化予測や報告義務が滞る傾向があります。

連係ミスの防止は、「情報共有」と「チーム医療の徹底」が重要に

クリニック内や他の医療機関との連携不足は、情報伝達の遅延や誤解を生み、医療過誤に繋がる可能性があります。

 

◆実際にあった連携ミス

連携ミスの事例1

過去に他院受診時にアナフィラキシーショックの既往(抗菌薬)があったことを看護師は事前問診およびネット問診で聴取していたが、この情報が医師に伝わっておらず、誤って処方してしまい、患者が再度服薬をしてアレルギー症状が生じた。

 

連携ミスの事例2

受診時の主訴から看護師が事前にバイタルサインをとり、その詳細を医師に報告したが、医師がこの内容に適切な対応を取らなかったため、待合室で患者が急変して、緊急搬送を要した。

 

◆留意すべきポイント

電子カルテの有効活用

患者情報を一元管理し、医師、看護師、薬剤師など、関係者間で迅速かつ正確に共有できる電子カルテシステムを導入・活用は、情報共有には非常に有効です。

 

実際に電子カルテを利用している場合は、アレルギー情報や既往歴、重要な検査結果などはアラート表示されるように設定し、すべての職種が患者カルテですぐに判明するような工夫が必要です。また、何か気づいた時点で、カルテに存在する付箋・メモ機能を活用することも重要です。

 

標準化された情報共有プロトコルの確立

他院紹介のルール、紹介状の作成、電話やFAXでの情報伝達ルール、緊急時の連絡体制などを明確にしておき、スタッフ間で共有・遵守します。

 

緊急事態で救急車コールをした場合、他の患者様をお待たせすることになるため、受付で緊急事態発生(=待ち時間が発生すること)がわかるようなお知らせが出せるようにするシステムが必要です。また、ビルテナントのクリニックが救急車コールをする際には、管理室への連絡、誘導係、記録係などあらかじめ役割を決めておくことも必要です。

 

多職種連携の強化

クリニックでは業務改善などを目的に、最低でも月1回の定期的なカンファレンス・症例検討会などを実施し、医師、看護師、医療事務などがそれぞれの立場から気になったことなど、患者さんの情報を共有し、治療方針、クリニックの運営方針を話し合う機会を設けます。

 

定期的に話し合いの場を設けることによって、情報共有を密にするだけでなく、いつでも相談のしやすい職場環境づくりを目指します。

 

チーム内での役割分担の明確化

各スタッフの役割と責任範囲を明確にし、それぞれの専門性を尊重しながら、患者様中心のチーム医療を実践します。

その他の留意すべきポイント

上記以外にも、医療過誤を防止するためにクリニック運営において留意すべき点は多岐にわたります。

 

◆ダブルチェックの習慣化

薬剤投与、検査検体採取、医療機器の設定など、重要な処置や作業においては、複数人によるダブルチェックを徹底します。

 

◆インシデント・アクシデント報告システムの構築

医療現場で発生したヒヤリハット事例や軽微な事故(インシデント)、実際に患者さんに影響を与えた事故(アクシデント)について、速やかに報告・分析し、再発防止策を講じるためのシステムを構築します。報告者を罰するのではなく、原因究明と改善に繋げる文化を醸成することが重要です。

 

◆医療安全に関する研修の定期的な実施

全スタッフを対象に、医療安全に関する基礎知識、感染対策、救急対応、コミュニケーションスキル向上などを目的とした研修は、年に2回の定期的に実施が義務となっています。

 

◆疲労管理と労働環境の整備

医療従事者の過労は、集中力低下を招き、医療過誤のリスクを高めます。そういた事態を防止するためにも、適切な休息時間の確保や休暇が重要です。急な欠員に備えたスタッフの確保、人数が少ない場合に医療安全の面から運営が困難であれば、予約診療のみに限定、あるいは診療時間の短縮・休診など、スタッフが働きやすい労働環境の整備が重要です。

 

◆医療機器の適切な管理と保守

医療機器の定期的な点検やメンテナンスを怠ると、故障や誤作動に繋がり、医療過誤を引き起こす可能性があります。とくに心電図・レントゲン装置などは適切な管理体制を構築し、保守契約や代替えの対応、緊急時のリモート対応や出張などの確認が重要です。

対策を講じることで、リスクは大幅低減できる

医療過誤の発生を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、上記のような対策を講じることで、そのリスクを大幅に低減することができます。

 

クリニック全体で医療安全に対する意識を高め、組織的な取り組みを継続していくことが、患者さんの安全を守り、クリニックの信頼を維持するために不可欠です。

 

日々の業務を見直し、小さな改善を積み重ねていくことが、医療過誤のない安全な医療提供に繋がるでしょう。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師