高齢者の住まいとして存在感が増している「老人ホーム」。入居が決まったとき、多くの家族は安堵し、そこで「ゴール」したかのように錯覚します。しかし、老人ホームへの入居は、あくまで新しい生活のスタートに過ぎません。入居時には完璧に見えても、時間の経過とともに綻びが出ることもあります。一度は手に入れたはずの安住の地を去らなければならない、または自ら去る決断をすることも珍しくはありません。今回は、手厚い介護に期待を寄せた、ある母娘のケースをみていきます。
「忙しいからオムツに出して」濡れたシーツで泣く84歳母に58歳娘が激怒。月20万円「手厚い介護」の残酷な正体 (※写真はイメージです/PIXTA)

6割超の施設が「人手不足」…データが示す介護現場の窮状

ヨシ子さんが入居していたホームは、決して特殊なケースではありません。背景には、介護業界全体を覆う深刻な人手不足があります。 公益財団法人介護労働安定センター『令和5年度介護労働実態調査』によると、介護事業所全体の64.7%が「人手が不足している」と回答しています。実に6割以上の現場で、十分な人員確保ができていないのが現状です。

 

不足の理由として9割近くの施設が「採用が困難である」と回答。賃金水準や身体的負担の大きさから、募集をかけても応募がない、あるいは採用してもすぐに辞めてしまうという悪循環に陥っている施設は少なくありません。

 

人手不足はサービス品質への影響も浮き彫りになっています。人手不足を感じている事業所では、利用者への対応が遅れる、十分なコミュニケーションが取れないといった課題が生じやすくなります。ヨシ子さんが直面した「コールへの対応遅れ」や「排泄介助の省略」は、まさに現場の余裕のなさが招いた結果といえるでしょう。

 

特に勘違いしがちなのが、老人ホームの人員配置です。「介護付有料老人ホーム」では、職員の配置基準が定められ、要介護1以上の入居者3人に対し、介護・看護職員1名以上となっています。入居者30人の介護付有料老人ホームであれば、10名以上の職員が必要というわけですが、この基準はどの時間帯でも常時10名以上の職員がいるという意味ではありません。常勤職員の月所定労働時間を基準としたもので、全員が常勤職員であれば10名が勤務しているということ。24時間、シフトを組んでいれば、時間帯によっては数名ということもあるでしょう。「基準以上」だからといって、手厚い介護サービスが受けられるとは限らないのです。

 

施設選びの際、パンフレットの数字や見学時の雰囲気だけで判断するのはリスクが伴います。人員配置についていえば、実際にどのように対応しているのか、細かな確認が必須です。

 

[参考資料]

公益財団法人介護労働安定センター『令和5年度介護労働実態調査』