高齢者の住まいとして存在感が増している「老人ホーム」。入居が決まったとき、多くの家族は安堵し、そこで「ゴール」したかのように錯覚します。しかし、老人ホームへの入居は、あくまで新しい生活のスタートに過ぎません。 入居時には完璧に見えても、時間の経過とともに綻びが出ることも。一度は手に入れたはずの安住の地を去らなければならない、または自ら去る決断をすることも珍しくはありません。今回みていくのは、「食事」にこだわりを持っていた親子のケースです。
「こんな冷えた飯、食えるか!」年金月18万円・82歳父が激怒。入居1ヵ月で5キロ減…試食会では見抜けない「老人ホーム選び」の落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームの試食会…「日常の食事」が出てくるとは限らない

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護による『介護施設入居実態調査 2025』によると、「老人ホームを探す時に金額と立地以外で重視したもの」として、トップは「スタッフの質・雰囲気」で32.4%。「すぐに入居できるか」(32.2%)、「医療体制」(28.2%)、「室内の清潔さ」(25.1%)と続きます。食事は21.4%。5人に1人が老人ホームを探す際に重視しています。

 

老人ホーム選びにおいて見学は必須ですが、食にこだわるなら試食会に参加したいもの。しかし試食会に参加して決めたとしても、田中さんのように「食への不満」から退去を選択するケースも珍しいことではありません。なぜ、試食会と日常の食事にこれほどのギャップが生まれるのでしょうか。

 

老人ホームのなかには、食中毒防止という観点から、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルに準拠した調理を行っているところがあります。加熱後の冷却処理などが厳格に定められており、家庭料理のような「出来立て熱々」を提供することが難しい場合があります。また、高齢者の健康管理のため、塩分控えめで柔らかい食事を基本とするため、元気で味覚の鋭い入居者にとっては「味がしない」「食感が悪い」と感じられやすいのです。

 

試食会では日常の食事をいただけるケースもあれば、行事食など特別な日の食事が振舞われることも。このような場合、「こんなに美味しいご飯が食べられるなんて」という勘違いが生まれやすい、というわけです。

 

施設選びの際は、特別な試食会だけで判断せず、「普段の昼食を、入居者と同じタイミングで食べさせてもらう」あるいは「1週間の献立表を見せてもらい、既製品の使用頻度を確認する」などといったチェックが必要です。契約前に「日常」を見極めることが、入居後のミスマッチを防ぐ鍵となります。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『【探し方編】LIFULL 介護が「介護施設入居実態調査 2025」を発表』