長寿化が進むなか、介護を必要とする人が増えています。現役世代にとって、仕事と介護の両立は大きな課題であり、子どもから施設への入所を勧めるケースも多いでしょう。しかしその選択が、後に大きな後悔に変わることも少なくないようです。80歳母と55歳娘の事例をもとに、介護離職後の現実と両立に困った場合の最善策をみていきましょう。山﨑裕佳子CFPが解説します。
お母さん、ごめん…年金月7万円の80歳母に「老人ホーム入居」を勧めた55歳娘の後悔
介護離職の前にできること
親の介護を担う世代は50代が最も多く、仕事と介護の両立に悩む人は少なくありません。総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、過去1年間に介護を理由に離職した人は10万6,000人にのぼっています。
介護は精神的・肉体的な負担に加え、経済的な負担も見過ごせません。親のために介護に専念しようと離職を選択すれば、大事な収入源を失うことになります。
仕事と介護を両立するのは容易ではありませんが、まずは両立支援制度の活用を検討してみましょう。代表的な制度には「介護休業」と「介護休暇」があります。
介護休業
「介護休業」は、対象家族※ひとりにつき通算93日間まで休暇を取得できる制度です。休暇は連続でなくてもよく、最大3回まで分割して取得することが可能です。さらに、受給要件を満たせば「介護休業給付金」の対象となり、賃金日額の67%相当額が支給されます。
介護休暇
「介護休暇」は、対象家族※の通院やケアマネージャーとの打ち合わせなど、短時間の休暇が必要な場合に利用できる制度です。介護が必要な家族1人につき「年5日」まで取得でき、1日単位・半日単位・時間単位での利用が可能です。
※ 対象家族の範囲は、配偶者、父母、祖父母、子、孫、兄弟姉妹、配偶者の父母。
介護と仕事の両立に悩んだ際、まずは「働き続ける方法」を考えることが大切です。精神的に追い込まれると周りが見えづらくなりますが、1人で抱え込まず、会社に相談したり行政の支援を頼ったりすることで、解決の糸口が見つかる可能性があります。
母子の「その後」
さゆりさんは、会社を辞めたことを後悔しています。もし介護サービスや両立支援制度をもっと活用できていれば、介護を続けながら働くことができ、自宅を売ることもなかったでしょう。
とはいえ、時間を巻き戻すことはできません。できることをするしかないと気持ちを切り替え、施設のケアマネージャーに母の状況について相談したところ、担当を変えるなど一定の配慮をしてもらえることになりました。
さっそく多江さんに伝えると、ホッとした様子を見せてくれて安心したそうです。
落ち着きを取り戻したさゆりさんは、改めて正社員を目指し、求職活動を始めたのでした。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表