短大卒で寿退社し、夫の転勤に付き従いながら45年間、専業主婦として家庭を支えてきた恵子さん(67歳)。自分なりに家族のために尽くしてきたという自負がありました。しかし、43歳の娘からのひと言が胸に刺さります。「私はお母さんみたいに、男に頼りきりの人生は嫌だった」。昭和の価値観の中で“家庭を守る妻”を全うした母と、就職氷河期を経験し自立を重視する娘――価値観のズレはどこから生まれたのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの三原由紀氏が解説します。
お母さんみたいな人生は絶対イヤだった…〈年金月7万円〉専業主婦歴45年・家族に尽くした67歳女性が「我が娘の言葉」に絶句した日【FPの助言】
専業主婦の価値は揺らがないが「選択肢を持つ力」は今でも取り戻せる
娘の言葉を受けて、恵子さんは老後の不安に向き合わざるを得なくなりました。
「もし夫が先に亡くなったら…7万円だけで生活できるのかしら?」
もちろん、専業主婦として家族を支え続けてきた恵子さんの人生には、確かな価値があります。ただ、“お金がないと動けない”という状態だけが娘の記憶になってしまったのも事実です。
そこで、FPとして恵子さんにお伝えしたのは、次の3つです。
① まず“家計の棚卸し”で、本当の選択肢を把握する
夫の年金額、企業年金、預貯金、住まいの名義、生命保険、遺族年金の金額…。 これらを整理するだけで、「本当に働く必要があるのか?」「どの程度あれば安心できるのか?」が冷静に見えてきます。 恵子さんのケースでも、夫の年金と預貯金を整理した結果、"今すぐ働かなくても生活は成り立つ"ことが分かりました。
②大切なのは「自分の意思で選んでいる」という実感
67歳から無理に働く必要はありません。ただ、もし将来一人になった時の不安が大きいなら、週1〜2日の短時間パート(月3〜5万円)も選択肢のひとつ。 一方で、地域活動やボランティアなど"外とのつながり"を持つことも、娘の安心につながります。収入の多寡よりも、「お母さんが、自分の意思で人生を動かしている」姿こそ、娘が本当に求めているものかもしれません。
③ 娘との関係は“言い換え”で変えられる
恵子さんには、次のような言葉を伝えることを提案しました。 「あの頃の私は、自分の人生を選び直す方法を知らなかった。でもあなたには自由に選んでほしくて、応援してきたのよ」
娘は母を否定したいわけではなく、 “母に幸せでいてほしい”という裏返しでもあるのです。
専業主婦だから不幸なのではありません。ただ、経済的に選択肢が狭い状態は、次の世代に「あんなふうにはなりたくない」という誤った印象だけを残してしまうことがあります。
恵子さんが45年間担ってきた家事・育児・介護は、誰にも代えられない価値です。ただ、これからは家計を整理し、必要なら少し外ともつながりながら、"自分で選べる人生"を取り戻していく。それこそが、娘にとっても、母にとっても、本当の安心につながる一歩になるはずです。
三原 由紀
プレ定年専門FP®