「すぐ返すつもりだった」。その場の危機をやり過ごすために借りた数万円~数十万円のお金。それがきっかけで、家族のために買った家まで失ってしまうことに――。実は、50代の自己破産は年々増加しています。背景の一つとして住宅ローンと教育費の二重負担が考えられ、「子どもに奨学金の返済を負わせたくない」という親心が見て取れます。今回は、教育費の不足分を補う目的でカードローンを利用して自己破産に陥った会社員の事例から、家計管理の重要性と自己破産後の家計再建について、CFPの松田聡子氏が解説します。
大切な我が家を失いました…〈世帯年収800万円〉〈住宅ローン4,500万円〉52歳会社員の転落。地獄の入り口は“ちょっと借りるだけ”の「30万円」【CFPの助言】
50代の自己破産が最多…教育費を「聖域」にする危険性
日本弁護士連合会の「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、自己破産申立人の年齢別割合で最も多いのが50代で、全体の25.63%を占めています。英俊さんのように、住宅ローンと教育費の重なる時期に家計が破綻するケースは少なくありません。
家計管理の原則は単純です。収入よりも支出が多ければ、いずれ破綻します。しかし、多くの親は「教育費だけは削れない」と考えてしまいがちです。
英俊さんの年間232万円(ボーナス払い含む)の住宅ローンは、世帯年収800万円の約30%に相当します。一般的に、住宅ローンの返済額は年収の25%以内が安全圏とされていますが、英俊さんはすでにこれを超えていました。
ここに子ども2人分の私立大学の学費年間200万円が加わると、住宅と教育だけで年間432万円。世帯年収の54%です。税金や社会保険料を差し引いた可処分所得で考えると、実に70%近くが住宅と教育に消えてしまう計算になります。長男が卒業して次男だけの教育費負担となっても、住宅ローンと学費の両立は簡単ではないでしょう。
さらに、カードローンの金利の高さが追い打ちをかけます。カードローンの金利は年15%前後が一般的です。住宅ローンの金利が1%前後であることを考えると、その差は歴然です。たとえば、30万円を年利15%で借りて毎月2万円ずつ返済した場合、完済まで約17ヵ月かかり、利息だけで約3.5万円を支払うことになります。
返済のために再び借りる自転車操業に陥ると、利息負担は雪だるま式に増えていきます。これがカードローンの怖さです。また、「自己破産」と聞くと、数千万円の借金を抱えた一部の人だけの話に思いがちです。しかし実際には、英俊さんのケースのように、300万円〜600万円などの借金で自己破産する人は珍しくありません。
教育費を「聖域」として扱い、そのためにカードローンという高金利の借金を重ねることは、結果的に家族全体を苦しめることになるのです。