祝福の旅路が、悪夢の序章だった

吉田隆史さん(66歳、仮名)は地方の中堅企業で役員を務め、この春に退職したばかり。新卒で入社し、60歳手前で役員に昇格。そして66歳で勇退しました。

退職金は2,000万円、これまで積み上げた金融資産を合わせると約4,000万円あります。妻の恵美さん(65歳、仮名)との二人分の年金は月25万円。住宅ローンの残債1,500万円も退職金で完済し、夫婦は十分な老後資金を手にしていました。

退職を機に、吉田さん夫婦は兼ねてより楽しみにしていた念願の海外旅行に出掛けました。現役時代の海外出張やクレジットカード利用で貯めたマイルで、アメリカ西海岸までファーストクラスで往復するという贅沢な旅です。有名シェフ監修の機内食、横になって眠れるシート、美しい街並み、絵画のような夕暮れ……。

「これまで頑張って働いてきたんだから、このくらい贅沢してもいいよな」

二人は何度もそう話していたといいます。

大満足の旅から帰国し、空港でスーツケースを受け取ったそのとき、一通のLINE通知が届きました。それは、県外に嫁いでいた一人娘の美沙さん(38歳、仮名)からでした。その内容は短く、しかし意味深でした。

「しばらく家に置いてほしい」

普段は気丈で弱音を吐かない娘からの突然のメッセージに、二人は胸騒ぎを覚えました。そして、その予感は現実のものとなったのです。