母が遺してくれた「私たちのお金」

中村和子さん(仮名、享年82歳)が亡くなったのは、初夏の暑さが増してきた6月のことでした。

5年前に夫を亡くして以来、独身の長女・直子さん(58歳)と二人暮らし。結婚して同じ市内に住む次女の美香さん(55歳)も頻繁に実家に顔を出す、仲のいい家族でした。

中村家は代々の資産家で、和子さんの夫・一郎さんは生前に会社勤めのかたわらで複数のアパートやマンションを所有し、手堅く資産を守っていました。一郎さんの死後は、和子さんがその資産を管理。そして今回、和子さんの相続に際しては、顧問税理士に依頼して相続税の申告を適正に行いました。

ところが、申告から2ヵ月後、直子さんは和子さんの部屋のタンスの奥から、見覚えのある銀行の封筒を見つけました。中には通帳が2冊。一冊は直子さん、もう一冊は美香さんの名義になっています。

直子さんが記帳に行くと、自分名義の口座には1,500万円、美香さん名義の口座にも同額の1,500万円が入っていました。どちらも10年以上前から毎年100万円ずつ入金されており、一度も出金されていません。

「お母さんが、私たちのために貯めてくれていたのね」

直子さんは美香さんにこの事実を伝え、二人は母の思いやりに涙しました。

税理士に伝えるべきかという会話も出ましたが、「相続の手続きも終わっているし、自分たちの名義で母の生前に振り込まれていたお金。生前贈与扱いだろう」と税理士に知らせることなく、それぞれ通帳を持ち帰りました。

ところが、このお金が後々思わぬ事態を招くことになったのです。