「名義預金」という落とし穴—なぜ姉妹の判断は誤りだったのか

中村姉妹のケースは、「名義預金」をめぐる典型的なトラブル事例です。善意から生まれた判断が、結果的に大きな税務リスクを招いてしまいました。

名義預金とは、預金口座の名義人と実質的な所有者が異なる預金のことです。たとえ子どもや孫の名義であっても、以下の条件に該当する場合、税務上は被相続人の財産とみなされます。

・資金の出所が被相続人である
・通帳や印鑑を被相続人が管理していた
・名義人が預金の存在を知らなかった、または自由に使えなかった
・名義人が実際に生活費として使用した形跡がない

中村姉妹の場合、母の和子さんが自分の資金で入金し、通帳も和子さんが保管していました。姉妹は母の死後に初めて通帳の存在を知ったのです。これは典型的な名義預金の条件を満たしています。

相続税の調査では、被相続人だけでなく、相続人の預金口座も調査対象になります。税務署は金融機関に対して過去10年分の入出金履歴を照会する権限を持っています。

中村姉妹のケースでは、以下の点が疑義を招きました。

・母親の口座から多額の出金があるのに、使途が不明
・姉妹名義の口座に定期的に入金されているのに、相続財産として申告されていない
・姉妹の収入では説明できない金額
・母親と同じ銀行・同じ支店で口座が開設されている
・口座開設時の印鑑が母親の印鑑と同一

中村姉妹は預金を母からもらったと主張していました。しかし、贈与が成立するためには、以下の要件が必要です。

1. 贈与者(母親)の「あげる」という意思表示
2. 受贈者(子ども)の「もらう」という意思表示
3. 財産の管理権が実際に受贈者に移っていること

中村姉妹の場合、和子さんは通帳を渡さず自分で管理していました。姉妹も口座の存在を知りませんでした。つまり、双方の意思表示がなく、管理権も移転していないため、贈与は成立していなかったのです。

名義預金が発覚すると、修正申告による追加の相続税に加えて、過少申告加算税(追加本税の10~15%)と延滞税が課されます。ただし、税務調査の通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税は免除されます。

中村姉妹も、通帳を発見した時点で税理士に相談していれば、加算税を避けることができたのです。