親が子どもや孫のために名義で作った預金口座。「生前贈与」のつもりが、税務調査で「名義預金」と判定され、相続財産に含まれてしまうケースは少なくありません。通帳や印鑑を親が管理していた、子どもが口座の存在を知らなかったなど、贈与の実態がなければ相続税の対象になります。 今回は、母の遺品から姉妹名義の通帳を見つけた家族の事例から、名義預金の落とし穴と正しい対策をCFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
亡き母のタンスから出てきた「2冊の通帳・総額3,000万円の贈り物」に涙した50代姉妹…1年半後、税務調査で露わになった「衝撃の事実」【FPが警鐘】
名義預金を防ぐために―正しい生前対策とは
中村家では亡き和子さんが生前に正しく贈与を行っていれば、このような問題は起きませんでした。有効な生前贈与のポイントは以下のとおりです。
1. 贈与契約書を作成する
口頭ではなく、書面で「いつ、誰が、誰に、いくら贈与する」ことを明記します。双方が署名・捺印し、日付を入れましょう。
2. 受贈者が自分で管理する
通帳・印鑑・キャッシュカードはすべて受贈者が保管します。被相続人が管理していては贈与になりません。
3. 受贈者自身の口座に振り込む
受贈者が普段使っている銀行の、自分で開設した口座に振り込みます。贈与者が開設した口座への入金は名義預金とみなされやすくなります。
4. 受贈者が実際に使う
贈与されたお金は、受贈者が自由に使えることが重要です。「将来のため」とまったく使わないでいると、実質的な管理権が移転していないと判断される可能性があります。
5. 110万円を超えたら贈与税を申告する
年間110万円の基礎控除を超える贈与を受けた場合は、必ず贈与税の申告をしましょう。「申告した記録」が、贈与が成立していた証拠になります。
もし相続後に名義預金を発見した場合は、必ず税理士に報告しましょう。また、相続税の申告を税理士に依頼する際は、「家族名義の口座がないか」を必ず確認してもらいましょう。
中村姉妹のように、「母の思いやり」を大切にしたいという気持ちは誰にでもあります。しかし、その思いを本当に活かすためには、正しい手続きが不可欠です。「隠す」のではなく「正しく対策する」ことが、本当に家族の財産を守る唯一の方法なのです。
松田聡子
CFP®