43歳独身の息子と2人暮らし「この生活も悪くない」が一変

原田静江さん(69歳・仮名)は、43歳の息子・悠人さん(仮名)と地方で2人で暮らしていました。悠人さんは地元の製造業に高卒で就職して以来、ずっと実家暮らし。几帳面で温厚な性格ですが口数は少なく、独身です。

3年前に夫を亡くして以来、静江さんにとって悠人さんは唯一の家族になりました。静江さんは夫の遺族年金を含めた年金月14万円と悠人さんから生活費としてもらう5万円で、何とかやりくりしていました。

「この子はきっと独身のまま、私と一緒に年を重ねていくんだろうな……」

そんな風に思い込み、息子の結婚へのあきらめと共に、経済的にも不安がなく、いっしょに暮らす家族がいるという安心感もあった静江さん。「こんな老後も悪くない」――そう思い日々を過ごしていたある日、夕食のときに悠人さんが口にした言葉に、思わず箸を落としそうになりました。

突然の転勤、そして別れ…「私の生活はどうなるの?」

悠人さんから語られたのは、思いもよらぬことでした。

「お母さん、実は……来月から転勤になった。現場の責任者として、行ってほしいって言われて」

新幹線で片道2時間の新工場への転勤、それは悠人さんにとっては栄転といえるチャンスでした。自分の仕事が認められたと思った悠人さんはやりがいに胸を弾ませ、すでにアパート探しも進めていたといいます。

しかし、静江さんの胸に浮かんだのは、喜びよりも不安でした。

「ちょっと待って、生活費はどうするの? 家のことは? 私ひとりで全部やるの? どうして私に相談もせずに……」

声を荒げて詰め寄る静江さんに、悠人さんは言葉を失いました。母の第一声が祝福の言葉でないことに、ショックを受けたのです。

言い争いの末、悠人さんは予定通り転勤を決め、これまで家に入れていたのと同じ月5万円の仕送りを提案。静江さんはしぶしぶ納得しました。しかし、それ以降、親子の会話は減り、転勤までの2ヵ月は悠人さんも静江さんを避けるように。ぎくしゃくした関係のまま、悠人さんは家を離れていったのでした。