定年を間近に控える50代は、バブル崩壊やデジタル化といった激動の時代を、持ち前の協調性と忍耐力で乗り越えてきた世代です。しかし現在、このように身を粉にして働いてきたにもかかわらず、「働かないおじさん(おばさん)」とレッテルを貼られてしまう人が少なくありません。かつて「いい社員」と呼ばれた彼らが、いつしか「どうでもいい社員」とみなされるようになった背景には、なにが潜んでいるのでしょうか。丸山法子氏の著書『定年を意識したら読む本 定年のトリセツ』(ごきげんビジネス出版)より、多くの中高年社員を静かに追い詰める時代の変化をみていきます。
「LINEでディスられ」「意見したら“古い”と一蹴」…会社に尽くした“誠実な50代”を待つ、「年収2千万円のお荷物」というリアル
家族より会社のニーズを優先…働かない社員はかつて「いい社員」だった
ここでいう働かないおじさん・おばさんは、悪意のあるゴミ社員、腐ったリンゴのように悪臭を撒き散らして伝染させるウイルス社員なんかではないのです。ただひたすら与えられたポジションで、与えられた役割を果たし、嫌な仕事でも、つらい役回りでも、そういうものだと自分の感情を切り替えてきただけの人です。
家族のニーズより会社のニーズを優先した結果、子どもから「今度いつくるの? おじさん」と呼ばれたり、「お母さんの手料理よりコンビニがおいしい、冷凍食品がいい」と言われたり。報われない子育て時代を過ごした人も多いでしょう。
多少バブルの恩恵を受けた人もいるかもしれませんが、いまの50代はバブルのあと、やらかした会社の尻拭い世代。理不尽な年功序列と男尊女卑、家族経営の会社にありがちなガラスの天井と、がんばれといわれてがんばっていたのに思うように動けず、振り返ってみるとスカートの裾を踏まれていたりする総合職1年生の女性と、何かに取り憑かれたように無意識に踏みつけたくなる男性。
こんな人生でよかったのだろうかと思うことすらあきらめてやってきた。そう……
・すべては会社のためという協調と忍耐
・これが働くということだと自己犠牲と忠誠
それができない、それがつらい、それは自分のポリシーに反する、という人は早々に転職したり、独立して自営業をしたりするでしょうけれど、それもしないで、ただただその仕事をまっすぐにやってきた。
やっているとだんだん慣れてきて、自分の居心地のよいペースをつかむのも上達してきた。手を抜くところや力の配分もわかってきて、やっとのびのびできるかなと背伸びをした瞬間、時代が急変します。
働き盛り時代にリゲイン飲みながら身につけた営業スキル、ファイリングや伝票入力などの事務処理、部下育成や上司とのコミュニケーションスキルは、もはや通用しなくなり、そんな中高年世代に共感しながらやさしく教えてくれるのはウエブセミナーの先生だけ。
つまり、いまどきの「働かないおじさん」と「おばさん」は、昔地道に誠実に会社のために実直に働いていた、いい社員たちなのです。