安定したキャリア、長年続けた関係、信じてきた価値観……。それらが、50代、60代になって、ふとしたきっかけにより「本当にこれでよかったのか?」という深い問いに変わることがあります。「もう今さら変えられない」と諦めるか、それとも全てを捨てて“人生の主役”に返り咲くか。丸山法子氏の著書『定年を意識したら読む本 定年のトリセツ』(ごきげんビジネス出版)より、3人の事例を通して、「絶望を越えて、自分の人生を取り戻す定年の歩き方」をみていきましょう。
代々銀行マン家系の50歳長男、“目を覆いたくなるほどの惨劇”で「銀行の無力」を知るも…父のために定年直前まで辞められなかった「苦悩」
50歳で一念発起…銀行マンと「防災士」の二刀流でキャリア再構築
地方銀行に勤めている佐藤さん・50歳。長男として生まれて代々銀行マンの家系。父に言われてそのまま銀行に就職し順調に成績をあげてきました。結婚して一人前、家をもって一人前と言われて、3人の子どもと小さいけれど一戸建てを購入。まさに絵に描いたような成功人生です。
ところが、ある年、土砂災害に見舞われました。自分自身に大きな被害はなかったものの、身近な人や地域が家屋倒壊、土石流に流されるなど、目を覆いたくなるほどの惨劇にショックを受けます。
佐藤さんは銀行マンとしてできることの限界を感じ、防災士の資格を取り、災害対策の専門家の道を選びます。
ところが、父の介護がはじまり、意外にも介護費用捻出が厳しい資産状況に愕然とし、サラリーマンを辞めることができません。そこで本業と防災士のダブルレールで、さらに父の介護のキーパーソンとして数年間を過ごします。
定年を迎える直前に個人事業主として起業、10年の下積みがあったからこそ協力者の存在や、すぐに売上につながる実績として評価されました。
40年続けた不倫と興味のない仕事を捨て、「海外留学」を機に“人生の主役”に
24歳にお見合いで結婚する予定でした。ところが、付き合っていた家庭のある男性のことが忘れられず、結婚式の10日前になって破談に。家族や友人たちから理解されない、まさに運勢最悪の20代・30代を過ごします。
たいして興味のない経理の仕事を続け、それでもその彼とはなんとなく続いていて。60歳目前になったとき、ふと、私には何が残っているんだろう、私は何を残せるんだろう、と自問するようになりました。
思えば更年期障害もあって、うつうつとしていたのでしょう。こんな自分でおわりたくないと、一向に結婚を言い出さない彼との40年の歴史に終止符を打ち、若かったときにできなかった海外留学に旅立ちます。
「ファッションや音楽、文化に浸り、素敵な彼氏がそれぞれの国にいる」と言って、まさに生まれ変わった人のよう。
日本に戻ると弟の家族や近所の子どもたちの食事の世話をしたり、SNSで発信したりして、年齢不詳の「かっこいい鈴木さん」として有名人になっているようです。