「息子と一緒なら大丈夫」―そう信じていました。

現在65歳のAさんが夫を亡くしたのは、息子が大学2年生のときでした。突然の別れに深い悲しみに沈みましたが、「この子の将来を守らなければ」と奮起。パート勤務を増やし、一家の大黒柱として懸命に働き、息子を無事に大学卒業まで導いたのです。

その息子も35歳になり、Aさん自身も定年を迎える年齢に。ふと、「これからの暮らしを、どこでどう過ごそうか」と考えるようになります。

夫が残してくれた家は高台にあります。買い物や通院にも坂道を上り、車が必須の生活。

「もっと暮らしやすい場所に引っ越せないかしら」便利な場所への住み替えを検討しはじめたAさんは、不動産会社を訪ねました。

「お一人での住宅ローンは難しいですが、親子リレーローンなら可能です。お子さんと一緒に借りれば安心ですよ」担当者の言葉に希望を感じたAさんでしたが、説明には専門用語が多く、内容を深く理解できないままでした。

不安が募る一方で、「でも、私にはあの子がいる」と思い直します。

「あの子は大学も出てしっかりしている。私よりずっと詳しいはず」そう信じて息子に話してみたところ、息子はあっさりと快諾してくれました。

「いいよ、一緒に住もう」

久しぶりに“家族で暮らす未来”がみえた気がして、Aさんは嬉しくて仕方がありません。

その後、息子も一緒に不動産会社と金融機関での面談を重ねました。真剣に話を聞く息子の様子にAさんの胸は熱いもので満たされました。

夫亡きあと、たった一人で守り育ててきた息子。その息子がこれからは、自分を守ってくれようとしている。苦労が報われたように感じました。息子の助けに背中を押され、Aさんは持ち家を売却。その資金800万円を頭金に、新しい家を購入します。「これで老後も安心ね」 Aさんは“親子で支え合う二世帯生活”を思い描き、安堵していました。